SECTION 01計画が「渡されるもの」になる瞬間
管理部には数字があります。過去の実績も、他部署との比較も、着地見込みも手元にある。だから早く作れます。早く作れるので、つい先に作って渡してしまう。
できあがった表を事業部長に渡すと、たいていこう返ってきます。「わかりました。やってみます」。
この返事が出た時点で、その計画はもう事業部のものではありません。守る対象が数字ではなく、約束に変わっているからです。約束は、達成か未達かでしか語れない。前提を入れ替えて考え直す、という動きが起きなくなります。
数字を扱う機会が多いか少ないかは、持ち場の違いにすぎません。
事業部長は現場の事実を誰よりも持っています。管理部はそれを表す言語を持っています。足りないのは能力ではなく、翻訳の手順です。手順が無いまま数字だけ渡すから、噛み合わない。
SECTION 02順番を入れ替える
やることは変わりません。並べ替えるだけです。
渡す順
数字 → 説明 → 納得
管理部が数字を置き、根拠を説明し、納得してもらう。速いが、前提が管理部の頭の中にしか無い。ズレたとき、事業部長は原因を語れません。自分で置いた前提ではないからです。
つくる順
事実 → 分解 → 数字
現場の事実から始め、数えられる単位まで割り、最後に数字が出てくる。時間はかかりますが、前提が事業部長の言葉で残ります。ズレたときに直す場所が分かる。
差は「誰が最初に口を開くか」だけです。管理部が黙って先に問いを出すか、答えを出すか。ここで以降のすべてが決まります。
SECTION 03現場で数えられる単位まで割る
「来期の売上目標は?」に答えるのは、誰にとっても難しい問いです。
この問いが難しいのは、答えが大きすぎるからです。分けれ方が分からないのではなく、一段で答えを出せる大きさになっていない。だから割ります。
この形にすると、問いが変わります。答えられる問いになります。
- いま、何社と取引していますか事実。手元の台帳を見れば出る
- 1社あたり、月にいくらですか事実。平均でよい
- 来期、何社増やせそうですかここだけが見込み。だから根拠を聞く
3問のうち、見込みは1つだけです。残りは事実なので、事業部長がその場で答えられます。答えられる問いから始めると、会話が止まりません。
割る基準はひとつです。現場で数えられるものになるまで。「market share」や「認知度」まで下りても、現場が数えられなければ、そこは止まります。数えられる高さで止めるのが、続く計画のこつです。
SECTION 04数字の隣に、前提を1行書く
ここを飛ばすと、あとの月次がすべて「未達の報告会」になります。
数値だけの表は、あとから読み返せません。なぜその数字を置いたのかが、置いた本人の頭からも消えるからです。だから隣に1行だけ書きます。長くしない。1行で足ります。
| 項目 | 置いた数 | なぜそう置いたか(1行) |
|---|---|---|
| 取引社数 | 20社 | いま13社。商談中が7社あり、過去の受注率は5割なので3〜4社。既存13社は維持できる見込み |
| 1社あたり月額 | 18万円 | 直近6か月の平均が17.2万円。値上げ交渉中の2社が通れば18万円台に乗る |
| 継続月数 | 11か月 | 昨年の平均継続が10.4か月。年度替わりの解約が2社あったため、今期は引き継ぎを前倒しする |
前提が書いてあると、ズレたときに直す場所が分かります。書いていないと、ズレはただの「未達」になり、直す場所が見つからないまま次の月に進みます。
1行に必ず入れる3つ
いま何がそうなっているか(事実)、それがどう動くと見ているか(見込み)、そう見る理由(根拠)。この3つが入っていれば、文章の巧拙は問いません。
SECTION 05月次で見るのは、差ではなく前提
実績が計画に届かなかった月に、何を聞くか。
差を見て「なぜ足りなかったのか」と聞くと、返ってくるのは済んだことの説明になります。責める意図が無くても、聞かれた側は原因の弁明を組み立てるしかありません。差はもう起きたことで、変えられないからです。
聞くのは「どの前提が変わったか」です。前提は、次に変えられます。
4か月目で線と塗りが離れています。ここで問うのは差の大きさではなく、20社という前提の何が動いたか。受注率が落ちたのか、商談数が減ったのか。どちらかが分かれば、5か月目の置き方が変わります。
聞き方を1つだけ決めておく
「先月の前提で、実際と違ったものはどれですか」。この一文を毎月の冒頭に固定しておくと、レビューが詰める場になりません。答えが「ありません」でも構いません。前提どおりだったのに結果が違ったなら、分解の仕方そのものを疑う番だからです。
SECTION 06管理部の側が、我慢すること
手順よりも、こちらのほうが難しいと感じています。
数字が見えている側は、10秒で答えが出ます。それを言った瞬間に、その数字は管理部のものになります。黙っている時間の分だけ、計画は事業部のものになります。
最後のセルは事業部長に打ってもらう。代筆した瞬間、責任の所在が移ります。書式を整えるのは、中身が固まってからで間に合います。
手作りの表は見づらい。それでも最初のうちは直さない。整った表が返ってくるようになるのは、中身に自信が出てからです。順番が逆になりません。
自分で作る段階で崩れたら、黙って一緒に作る段階に戻す。宣言も理由づけも要りません。戻したことを本人に説明しないほうが、次に進みやすくなります。
SECTION 07半年後に変わること
この手順を回すと、半年ほどで会議の中身が変わります。管理部が数字を説明する時間が減り、事業部長が前提を説明する時間が増えます。
そしてある月から、事業部長のほうから数字で提案が来るようになります。「この2社に人を1人張れば、月額が3万円上がる見込みです」。この一文が出たとき、翻訳の手順はもう要りません。
そのとき管理部の仕事は、作ることから、問うことに変わります。他事業との資源配分はどうか、その投資は何か月で戻るのか。同じ数字を見ながら、違う立場から議論できる関係になります。
計画は、数字を埋める作業ではありません。
現場が持っている事実を、あとから読み返せる形に翻訳する作業です。
翻訳の手順さえ共有できていれば、どちらが数字に慣れているかは問題になりません。管理部が持っているのは言語であって、答えではないからです。