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大東建託はなぜ栄えたのか
— 「空室でも家賃が入る」を売った営業の帝国

売るのはアパートではなく「相続対策と安心」。管理戸数日本一を作った賃貸経営受託システムの光と影。

1974–80s創業 — 三重の一人親方から
創業期
創業者

多田勝美 — 訪問営業の申し子

三重県で建築業から身を起こし、名古屋で大東産業(後の大東建託)を創業。武器は商品でなく「土地をお持ちですね」から始まる提案営業。地主の悩み(税金・遊休地・相続)に切り込む型を作り上げた。

「建てませんか」ではなく「経営しませんか」へ
1990s–2000s発明 — 賃貸経営受託システム
モデル確立期
中核の発明

35年一括借上げ — 空室リスクを引き受ける

建てたアパートをグループが丸ごと借り上げ、空室でもオーナーに家賃を支払う。地主の最大の不安(空室)を取り除くことで建築受注が決まり、建築の利益+管理・家賃収入のストックが両取りできる。大和ハウスと同じ型を、賃貸アパート一本に極限まで特化した。

営業力の装置化

高い歩合と厳格な数値管理で全国に営業部隊を展開。金融機関の融資を組み合わせた提案パッケージで、「土地はあるが現金はない」地主を大量に顧客化した。

2015年、相続増税が市場に火を付ける
2015–20追い風と逆風 — 相続バブルとサブリース問題
転換点
追い風

相続税強化 → アパート建築ブーム

2015年の相続増税で「借金してアパートを建てると相続税が減る」ニーズが爆発。業界全体が空前の受注に沸いた。

逆風

サブリースへの社会的批判と新法

家賃保証が将来減額されうる仕組みについて社会的な関心が高まり、2020年サブリース新法で勧誘規制・重要事項説明が義務化され、「保証」の言葉の重みが法律で問われる時代になった。人口減少地域での供給過剰も構造課題として残る。

ビジネスモデルと財務 — 儲けの設計図

2024年3月期 建築請負(フロー) × 一括借上げ・管理(ストック)の特化型
地主・相続対策土地オーナー¥ 建築請負費土地活用・節税提案大東建託¥ 家賃部屋全国の賃貸住宅入居者¥ 建築資金の融資返済(オーナー)オーナーに融資金融機関35年一括借上げで「空室でも家賃保証」を武器に受注する
全体図:色付きピル=お金の流れ(¥)/白ピル=モノ・サービスの流れ
お金の流れ
土地オーナーアパート建築の請負代金(融資が原資)フロー
入居者家賃 → グループが借上げて収受、オーナーへ保証賃料を支払うストック
入居者仲介・更新・家賃決済などの周辺収入ストック
売上高約1.75兆円
営業利益約1,166億円
営業利益率 約7% / 利益の柱は不動産(管理)事業
見た目は建設会社だが、いまや利益の主力は120万戸超の管理ストックが生む不動産事業。建築受注が景気で振れても、家賃と管理料は毎月入る。マクドナルドの「本業の顔と収益の柱が違う」構造の、日本の地場版と言える。

年次推移 — 売上と営業利益はこう動いた

単位:億円(3月期・概数)。棒の数字=売上、「利」=営業利益。

9800
2010利 700
13600
2015利 880
15900
2018利 1180
14900
2021利 890
17500
2024利 1166
売上営業利益
グラフの裏側 — 時代背景と経営の対応
2015社会情勢相続税強化 — 節税アパート建築ブームで受注が急伸。
2018社会情勢サブリース契約をめぐる社会的関心が高まり、業界への視線が厳格化。
2019社会情勢金融庁が投資用不動産融資を引き締め — 受注の追い風が止む。
2020社会情勢サブリース新法施行+コロナ禍で建築受注が減速(グラフ2021の谷)。
2024打ち手管理戸数のストック収益が下支えし、利益は回復基調。賃貸仲介「いい部屋ネット」も認知拡大。
現在社会情勢人口減少地域の空室リスクと、保証賃料の持続性が長期の経営課題に。

※数値は直近または記載の決算期に基づく概数。最新の情報は各社の開示資料をご確認ください。

深掘り編 — ライバル・裏話

大和ハウス回との比較で見ると、「多角化のダイワ」対「特化の大東」の構図が鮮明になる。

ライバルとの攻防史

土地活用

vs 大和ハウス・積水ハウス — 総合力vs一本足

大手ハウスメーカーが住宅・商業・物流へ分散する中、大東建託は賃貸アパートに一点集中。特化ゆえの営業効率と管理規模で、賃貸管理戸数日本一を守り続ける。

転換点の裏側 — 教科書に載らない話

営業の科学

売っているのは建物ではなく「相続の解決」

提案書の中心は建築図面でなく、相続税シミュレーションと収支計画。顧客の財布でなく、顧客の不安に値段を付ける営業設計が受注率を決める。士業(税理士・社労士)との連携が営業の生命線という点も特徴的。

制度の逆風

「保証」という言葉が法律で定義し直された

サブリース新法は、将来の家賃減額リスクの説明を義務化した。営業トークの一言が法令違反になりうる時代への転換で、コンプライアンスが営業モデルそのものを規定するようになった業界の分水嶺。

数字トリビア — 知っておきたい事実

管理戸数120万戸超で日本一「大東建託の物件に住んだことがある人」は膨大。
賃貸仲介ブランドは「いい部屋ネット」CMの会社と建築の会社が同一と知らない人も多い。
受注のドライバーは税制相続税の改正が、そのまま業界の景気になる。
利益の柱は建築でなく管理フロー企業に見えてストック企業。

大東建託が栄えた5つの構造

1

商品でなく「不安」に値付けする

空室・税金・相続という不安の解消が商品。建物はその手段にすぎない。

2

リスクを引き受けた者が受注を取る

空室リスクの引き受け(借上げ)が最強の営業ツールになった。リスク移転こそ差別化

3

特化はスケールの近道

賃貸アパート一本への集中が、営業・施工・管理の全てを規格化させ、管理戸数日本一を生んだ。

4

税制が市場を作り、法規制が市場を締める

相続増税で沸き、サブリース新法で律された。制度感応度の高い事業は、制度を読む力が経営力。

5

引き受けたリスクは消えない

35年の保証は35年の債務でもある。人口減少下での持続性という宿題は、これからが本番。

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