札幌の家具店が、米国視察の衝撃から半世紀。「お、ねだん以上。」を支える垂直統合の経営フロー。
23歳で札幌に似鳥家具店を開業。本人が「運が9割」と語る自伝でも知られるが、その裏に徹底した学習と観察がある。
渡米セミナーで見たのは、日本の3分の1の価格で豊かにコーディネートされた住まい。「住まいの豊かさを世界の人々に提供する」というロマン(志)と、チェーンストア理論という手法をここで手に入れた。以後、目標は「何店舗・何年後」と数値で言い切るスタイルに。
インドネシア・ベトナムに自社工場を構え、企画から製造まで自社化。ユニクロと同じSPAだが、家具は「大きくて重い」ため次の一手が決定的だった。
輸入・港湾・倉庫・配送まで自社網を構築。家具のコストの大きな塊である物流を内製化したことで、価格競争力の源泉が完成した。後にIT武装を加え自ら「製造物流IT小売業」と名乗る。
不況期に繰り返し値下げを打ち出し、節約志向の受け皿として客数を伸ばした。コロナ禍では在宅需要も追い風に。30年以上・30数期連続の増収増益という日本小売業史に残る記録を築いた(記録は近年ついに途切れたが、その長さ自体が経営の教材)。
DCMと競合した島忠の買収で、より高い価格を提示して成立。ホームセンターとの融合という次の実験に踏み出した。
単位:億円(2月期→3月期・概数)。棒の数字=売上、「利」=営業利益。
※数値は直近または記載の決算期に基づく概数。最新の情報は各社の開示資料をご確認ください。
ニトリが国内で支持を広げた背景には「日本の住宅事情×物流」という設計思想がある。
世界最大の家具チェーンIKEAは、組立前提・郊外大型店・大きめのサイズ展開を軸にしている。対してニトリは日本サイズ・完成品・全国配送を選んだ。同じ家具でも、想定する住宅事情と買い物行動の違いが、商品設計と店舗網の設計を分けている。
同じ「シンプルな暮らし」でも、無印はブランド・世界観で、ニトリは機能と価格で売る。ネームバリューでなく値札で勝負する潔さが「お、ねだん以上。」に凝縮されている。
米国から帰った似鳥は、当時数店舗の段階で30年後の長期計画を宣言。周囲は笑ったが、ほぼ計画通りに達成した。大きすぎる目標を数値と期限で言い切ることが組織を動かす、という目標設定論の生きた事例。
似鳥は半世紀にわたり毎年渡米し、小売の変化を定点観測し続けたことで知られる。為替予測が当たるのも相場観でなく、実体経済の現場観察の積み上げ。トップ自らが市場調査員であり続ける経営スタイル。
「住まいの豊かさを世界に」という志を、30年単位の数値計画に翻訳した。理念と計画はセットで初めて機能する。
家具なら物流。業界のコスト構造を見て、最大費目を自社に取り込むのが垂直統合の正しい順番。
皆が守りに入る時に攻める逆張りが、連続増収増益の推進力だった。
毎年の米国定点観測と為替の研究。情報収集を部下任せにしない経営が意思決定の精度を作った。
円安で連続増益は止まったが、垂直統合という構造自体は毀損していない。単年の数字より構造を見る目が大切。