埋立地の交渉から40年。入場者数を追う経営を捨て、客単価と体験価値へ転換した現在までのフロー。
京成電鉄・三井不動産が設立したOLCの使命は浦安沖の埋立事業。高橋は漁業補償の交渉を膝詰めでまとめ上げ、その土地の使い道として米ディズニーとの誘致交渉に挑んだ。
交渉の末の契約は、ディズニーが出資せず、OLCが建設・運営の全リスクを負い、売上に応じたロイヤリティを支払うライセンス方式。リスクを取った側が利益の大半を取る——後にこの契約は「日本側の大勝利」と呼ばれる。1983年、借入約1,800億円を背負って東京ディズニーランド開園。初年度から1,000万人が訪れた。
世界で唯一の海のディズニーパークを自己資金中心で建設。2パーク体制で滞在日数と客単価が伸び、ホテル・モノレール・商業施設を含む「浦安一帯の体験経済圏」が完成した。
東日本大震災当日、キャストが売り物のぬいぐるみを防災頭巾代わりに配るなどの対応が「神対応」として語り継がれた。マニュアルでなく権限を委ねられた現場の判断が生んだ行動で、9割が非正規というキャストの教育・文化がブランドの核であることを世に示した。
コロナ休園で赤字転落(グラフの▲)後、再開時の入場制限が皮肉にも体験価値を高めた。以後、変動価格制チケット・有料ファストパス(DPA)・約3,200億円のファンタジースプリングスと、人数を絞り単価と満足度を上げる経営へ大転換。客単価は開園以来の高水準を更新し続けている。
単位:億円(3月期・概数)。棒の数字=売上、「利」=営業利益。2021年はコロナ休園で赤字。
※数値は直近または記載の決算期に基づく概数。最新の情報は各社の開示資料をご確認ください。
USJとの比較、そして「ロイヤリティを払う側」の視点がこの会社の面白さ。
USJもハリポタ・マリオ(任天堂!)とIPを借りて復活した。任天堂回とつなげると「IPを貸す京都の会社と、IPを借りる大阪・千葉の会社」という日本エンタメの構造図が描ける。
東京のパークは来場者数・運営品質で世界のディズニーパーク群でも常に最上位。直営でない唯一の主要パークが最高の成績という事実が、OLCの運営力の証明になっている。
交渉当時、ディズニー側は日本市場を信じず出資を拒否。全リスクを日本側が負う条件は当時「不利」と見られたが、成功した瞬間に利益の大半が日本側に残る契約に反転した。リスクの引受先が、リターンの帰属先という契約の大原則を示す名例。
変動価格制の導入で繁閑を平準化し、DPAで「時間をお金で買う」選択肢を追加。値上げを「体験の質の維持費」として物語化したことで、客数を絞りながら売上と満足度を同時に上げた。値上げが支持され続けるための設計図といえる。
出資を拒んだ本家と、全リスクを負った日本側。40年後の利益の在り処が契約の意味を教えてくれる。
世界一のディズニー運営という無形資産は誰にも借りられない。ライセンス経営の勝敗は運営で決まる。
混雑は売上であり体験の敵だった。制約(入場制限)が結果的に最適解を教えた。
震災対応が示した通り、感動はマニュアルでなく権限委譲から生まれる。ドンキと同じ結論に別ルートで到達している。
値上げで得た利益をキャスト処遇に還流できるか。人的資本経営の試金石として今が正念場。