火事で燃えた店から始まった低価格戦略。飲食業を名乗らず「製造直販業」を名乗る理系経営のフロー。
大学在学中、千葉・本八幡の洋食店を引き継ぎ創業。だが立地最悪の2階店で客はゼロに近く、さらに店が火事で焼ける不運に見舞われる。
「料理の腕を磨いても客は来ない。なら価格を変えてみよう」と大胆な値下げを敢行した瞬間、客が殺到。「おいしいから売れるのではない。売れているものがおいしい料理だ」——後の経営哲学がこの日に生まれた。
野菜の品種開発・契約栽培、国内外の自社工場での集中調理、自社物流。中間マージンと店内調理を徹底的に排除し、1皿300円でも粗利を確保できる原価構造を作り込んだ。2000年に上場。
調理は工場に集約し、店舗は加熱と盛り付けの「仕上げ場」に。誰が作っても同じ品質・少人数で回るオペレーションで、人時生産性(1人1時間あたり売上)を科学的に磨き続ける。床のモップがけの動線まで研究対象。
豪州に大型自社工場を構え食材供給網をグローバル化。上海・広州・北京などに出店した中国事業は、現地では「おしゃれな洋食店」の立ち位置で日本より高い利益率を確保。国内で薄く、海外で厚く稼ぐ二重構造が育っていく。
コロナ禍で外食が止まり赤字転落(グラフの▲)。さらに円安・原材料高が直撃したが、国内メニューの主要価格を据え置き。アジア事業の利益で国内の低価格を支える構造で耐え抜き、客足の回復とともに過去最高売上へ。「値上げしない」が最強の広告になった。
単位:億円(8月期・概数)。棒の数字=売上、「利」=営業利益。
※数値は直近または記載の決算期に基づく概数。最新の情報は各社の開示資料をご確認ください。
なぜ他のファミレスは同じ価格にできないのか。答えは店の外——工場と農場にある。
コスト高局面では価格改定に踏み切る外食チェーンが多かった中、サイゼリヤは国内主要価格の据え置きを選択。「価格を上げるか、原価構造そのものを変えるか」という経営判断の分岐点となった。
中国では低価格勝負ではなく、手頃な西洋料理体験としてポジションを確立。同じ商品でも市場が変われば価値が変わることを利益率で証明した。
物理学科出身の正垣は、注文数・原価・調理時間・喫食率をデータで見て、売れない皿は味の良し悪しに関係なく外す。「自分の店の料理を疑え」が口癖で、繁盛は科学的に再現できるという思想を組織に植え付けた。
100円のデカンタワイン、テーブルの調味料——原価率を度外視した名物は、客数を増やす投資として設計されている。個々の商品でなく店全体・チェーン全体で利益が出ればよいというポートフォリオ発想。
待ち時間の不満対策として置かれた間違い探しは、追加コストほぼゼロで顧客体験を上げ、SNSで拡散する広告にもなった。金をかけずに知恵をかける文化の象徴。
最悪の立地と火事がなければ「価格の実験」は起きなかった。制約こそ発明の母、はトヨタと同じ型。
勝負は店内でなく、農場と工場で決まっている。業種の自己定義を変えると原価構造が変わる。
味覚も接客も動線も数値化。誰がやっても同じ品質は、人手不足時代の最強の採用対策でもある。
同じ商品でも市場が変わればプレミアムになる。薄利の本国事業を海外利益で支える二重構造。
価格の一貫性が信頼となり、広告費ゼロで客数を増やす。価格戦略はブランド戦略である。