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スターバックスはなぜ栄えたのか
— コーヒーではなく「場所」を売った会社

豆の小売店を「第三の場所」に変えた着想と、人への投資を収益に変えた経営を一本のフローで。

1971創業 — 豆を売る店だった
原型期
シアトルの3人の創業者

コーヒー「豆」の小売店として誕生

創業時のスターバックスは焙煎豆と器具を売る店で、店内で飲むコーヒーは提供していなかった。品質へのこだわりは強かったが、あくまで「物販業」。

1982年、マーケティング担当として一人の男が入社
1983–87転換 — ミラノの啓示
構想期
ビジョンの持ち込み手

ハワード・シュルツ

出張先のミラノで、エスプレッソバールが地域の社交場になっている光景に衝撃を受ける。「アメリカに家庭でも職場でもない“第三の場所”を作れる」と確信した。

社内の壁

創業者たちは反対 → 一度退社

「うちは豆屋だ」とバール構想は却下され、シュルツは1985年に独立して自分のカフェを創業。ジョブズが一度アップルを離れたのと同じく、ビジョンの持ち主が一度会社を出る展開に。

1987

逆転 — シュルツがスターバックスを買収

投資家から資金を集め、古巣スターバックスを約380万ドルで買収。豆屋の看板とブランドの下で、カフェ業態への転換が始まる。

「第三の場所」構想 × スターバックスブランド
1987–92仕込み — 人に投資する経営
基盤構築期
当時の常識破り ①

パートタイマーにも健康保険

週20時間以上働く従業員全員に医療保険を提供。父親が労災で職を失った原体験から、シュルツが最優先で導入した施策。離職率の低下が接客品質に直結した。

当時の常識破り ②

従業員を「パートナー」と呼び、株を渡す

ストックオプション制度「Bean Stock」をパートにも付与。従業員が会社の成長の受益者になる設計で、「やらされ仕事」の接客と一線を画した。

1992年 株式公開

IPOで得た資金を出店に投下し、全米展開が加速。ここから約10年で店舗数は爆発的に増える。

1992–2007拡大 — 体験の輸出
世界展開期
直営中心

FCに頼らない

体験品質を守るため直営を基本に(海外はライセンス活用)。マクドナルドと真逆の選択。

1996

海外1号店は東京・銀座

北米外初の店舗は日本。禁煙カフェという当時の非常識が新鮮さになった。

「体験」の標準化

店の内装・音楽・香り・カップに名前を書く接客まで含めて設計。コーヒー1杯の原価ではなく、そこで過ごす時間に値付けをした。プレミアム価格でも行列ができる理由はここにある。

2007–08危機 — 拡大が体験を壊した
危機

出店しすぎて「ただのチェーン」に

急拡大の中で効率を優先し、店の香り・挽きたての演出・接客の質が劣化。既存店売上が落ち、金融危機も直撃して株価は大幅下落。シュルツ自身がメモで「体験の陳腐化」を痛烈に警告した。

2008年 シュルツCEO復帰(ジョブズ復帰と同じ型)
2008–再興 — 原点回帰とデジタル
再成長期
再興策 ①

全米7,100店を一斉休業して再研修

2008年2月、営業を止めてバリスタ全員にエスプレッソの淹れ方を再教育。数百万ドルの売上を捨てて「体験こそ商品」というメッセージを社内外に示した。不採算約600店の閉鎖も断行。

再興策 ②

デジタル会員経済圏

モバイルオーダー&ペイとリワード制度で顧客データとプリペイド残高を握る。アプリ残高は小さな銀行並みと言われる規模になり、来店頻度を押し上げた。

約4万世界店舗数
80超展開国・地域
1,900+日本の店舗数

ビジネスモデルと財務 — 儲けの設計図

FY2024(2024年9月期) 直営 × 体験プレミアム × 会員経済圏
ゲスト消費者¥ 代金・チャージ第三の場所スターバックス¥ 給与・保険・株体験品質パートナー従業員¥ ロイヤリティブランド提携先ライセンス店人への投資が広告費の代わり
全体図:色付きピル=お金の流れ(¥)/白ピル=モノ・サービスの流れ
お金の流れ
消費者商品代金(体験込みのプレミアム価格)フロー
会員アプリへの事前チャージ(前受金)ストック
提携先ライセンス店収入・パッケージ商品ストック
売上高約362億ドル(約5.4兆円)
営業利益約54億ドル
営業利益率 約15%
売上構成
直営店売上 約82% ライセンス店 約11% その他(商品販売等)
マクドナルドと真逆の直営中心なので、店舗人件費・家賃を全部自社で負担する。それでも15%の利益率が出るのはコーヒー1杯にブランドと空間の分を上乗せできているから。さらにアプリ残高(顧客からの前受金)が巨額で、無利子で顧客から資金を預かっているに等しい——小さな銀行並みと言われる規模。「体験を売る」という歴史フローの選択が、直営コストと引き換えに価格決定力という財務的果実を生んでいる。

年次推移 — 売上と営業利益はこう動いた

単位:10億ドル(9月期・概数)。棒の数字=売上、「利」=営業利益。

2.2
2000利 0.2
6.4
2005利 0.8
10.7
2010利 1.4
19.2
2015利 3.6
23.5
2020利 1.6
36.2
2024利 5.4
売上営業利益
グラフの裏側 — 時代背景と経営の対応
2008社会情勢リーマンショック直撃。過剰出店の反動と重なり業績悪化。
2008打ち手シュルツCEO復帰。全米7,100店を一斉休業して再研修、約600店を閉鎖。
2015打ち手モバイルオーダー&ペイ導入。アプリ会員経済圏の構築が始まる。
2020社会情勢コロナ禍で店舗休業 — 「第三の場所」が物理的に失われ減益(グラフ2020の凹み)。
2021打ち手会員データとドライブスルーで急回復。デジタルが体験を補完。
2022社会情勢米国で労働組合結成の波。「パートナー経営」の理念が改めて問われる。
2024打ち手業績停滞を受けニコル新CEO就任。「第三の場所」への原点回帰を宣言。

※数値は直近の通期決算に基づく概数です。最新の情報は各社の開示資料をご確認ください。

深掘り編 — ライバル・裏話・日本市場

ここからは一段深く。競合との攻防、有名な逸話、日本市場との関係を掘り下げます。

ライバルとの攻防史

米国

vs ダンキン — 「体験」対「実用」

安く速いダンキンに対し、スタバは滞在価値で差別化。通勤客の「実用」需要では負けても、単価と客の滞在時間で勝つという棲み分けが確立した。

中国

vs ラッキンコーヒー — 店舗数で逆転された

アプリ完結・持ち帰り特化・低価格のラッキンが急拡大し、中国の店舗数でスタバを逆転。「第三の場所」モデルが初めて構造的に敗れつつある市場として、世界中の小売関係者が注視している。

日本

vs コンビニコーヒー — 100円の刺客

2013年のセブンカフェ登場は「コーヒー市場の破壊」と騒がれたが、実際は市場全体が拡大しスタバも成長。低価格帯の裾野が広がるとプレミアム帯も伸びる、という反直感的な結果になった。

転換点の裏側 — 教科書に載らない話

2007

流出した「シュルツの檄文メモ」

会長だったシュルツが経営陣に送った内部メモ「スターバックス体験の陳腐化」が流出。自動エスプレッソマシンで香りが消え、効率化が魂を殺したと自社を痛烈に批判する内容で、翌年の復帰と大改革の予告編になった。

2018

全米約8,000店を閉めて研修した日

店舗での接客対応をめぐる問題を機に、全米の直営店を半日閉鎖して多様性と包摂に関する研修を実施。売上を捨てて価値観を示す対応は、2008年の7,100店閉鎖と同じ「らしさ」の発露として世界的ニュースになった。

1982–87

社名は小説『白鯨』から

Starbucksは『白鯨』の一等航海士スターバックに由来し、ロゴのセイレーンも海の神話から。コーヒー豆の「航海」のロマンをブランドに織り込んだ命名で、ストーリーテリング経営の原点と言える。

日本との関わり

北米外1号店は銀座 — そして47都道府県制覇へ

1996年、サザビーとの合弁で銀座に北米外世界1号店を開店。「全席禁煙のカフェ」は当時の非常識だったが、それが新しさになった。2015年に最後の鳥取県へ出店し47都道府県制覇。地域限定フラペチーノや地元デザインの店舗(京都二寧坂の町家店など)は、日本発の施策として海外にも影響を与えている。

数字トリビア — 知っておきたい事実

アプリ残高は小規模銀行の預金並み顧客からの前受金=無利子の資金調達になっている。
パートにも保険とストックオプション1980年代末からの施策。福利厚生が広告費の代わり。
広告費が売上比で異常に少ない店舗と紙コップ自体が広告。体験がマーケティング。
従業員の呼称は「パートナー」雇用でなく協働。理念が制度(株式付与)と接続している。

スターバックスが栄えた5つの構造

1

商品ではなく「時間と場所」を売る

コーヒーはあくまで入場券。「第三の場所」という概念の発明が、原価数十円の飲み物に数百円払う理由を作った。

2

ビジョンは外から来る — そして一度拒絶される

創業者ではなく途中入社のシュルツが会社の本質を再定義した。Appleのジョブズ退社→復帰と同じ「ビジョン保持者の出戻り」型。

3

人への投資が最強のブランド投資

パート含む健康保険とストックオプションで離職率を下げ、接客品質=体験品質を守った。広告費をほぼ使わず成長できた理由でもある。労務施策がそのまま経営戦略になった稀有な例。

4

体験を売る会社はFCと相性が悪い

直営中心はコストが重いが、品質統制を優先した。何をスケールさせたいかでマクドナルド型(仕組み)とスタバ型(体験)は分かれる。

5

危機対応は「売上より価値観」を見せる

7,100店一斉休業は損益計算では説明できない決断だが、ブランドの核を再起動させた。再建はコスト削減だけでは完成しない。

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