人件費投資コンサルティング
賃上げ・昇給の判断基準

その賃上げ、利益に合っていますか

「上げるべきか」ではなく「どこまで上げてよいか」── 多くの社長が本当に迷うのはここです。世間相場や社員の声に押されて言い値で昇給を決めると、固定費が静かに積み上がります。この記事では、賃上げの可否を感覚でなく労働分配率・人件費率・営業利益率という3つの物差しで判断する方法と、業種別の目安、そして原資の作り方を整理します。

3つの物差し
賃上げ判断の基本指標
40〜60%目安
労働分配率の一般的レンジ
198,000
社長のための人件費成績表
Why It Matters

賃上げは、もう避けにくい現実になっている

最低賃金の継続的な引上げ、人手不足、物価上昇。中小企業をめぐる環境は、賃上げを「するか・しないか」の問題ではなく「どこまで・どうやって続けるか」の問題に変えました。問題は、その判断を勘と世間話で行ってしまうことにあります。

近年は中小企業でも数%規模の賃上げが続く流れにあります(一般的な傾向)。採用市場でも「昇給がある会社か」は応募者が見る重要な点です。賃上げを止めれば人が採れず、辞めていく。だからこそ、上げること自体は前提に置きつつ、「自社はどこまで出せるのか」を数字で押さえることが経営判断の中心になります。
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賃上げをしないリスクと、出しすぎて固定費が膨らむリスク。経営者はこの両方を天秤にかけています。本記事は後者、「出しすぎ」を防ぐための物差しを中心に解説します。離職が会社にいくら損失を生むかは 社員が1人辞めると会社はいくら損するのか も併せてご覧ください。
Benchmark
労働分配率の目安(業種により異なる)
適正〜やや余裕 注意 重い 0%50%60%80% 例:68%
労働分配率=人件費 ÷ 粗利。一般的な目安で、適正水準は業種・ビジネスモデルにより異なります。賃上げは「どこまで上げてよいか」をこの物差しで判断します。
数字で確かめたい方へ。弊所が顧問先で運用する経営ダッシュボードのデモと、採用1名の「転換の谷」を試算できるROIシミュレーターをご用意しています。
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Three Yardsticks

賃上げを判断する「3つの物差し」

感覚で「もう少し上げてもいけそう」と決める前に、最低限おさえたい指標が3つあります。人件費率・労働分配率・営業利益率です。1つだけ見るのではなく、3つを並べて見ることで「あと何%なら無理がないか」の輪郭が見えてきます。

物差し1
人件費率
人件費 ÷ 売上高。売上のうち、どれだけを人に払っているか。売上が増えにくい中で人件費だけ増えると、この比率がじわじわ上がります。
物差し2
労働分配率
人件費 ÷ 粗利益(付加価値)。稼いだ粗利のうち、どれだけを人に分配したか。賃上げ余地を見るうえで最も重要な指標です。
物差し3
営業利益率
営業利益 ÷ 売上高。本業でどれだけ利益が残っているか。ここが薄いと、賃上げ原資そのものが枯れます。
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3つのうち、賃上げ判断の主役は「労働分配率」です。人件費率は「売上に対する重さ」を、労働分配率は「稼いだ粗利の分け方」を表します。たとえば外注比率が高い建設業のように、売上が大きくても粗利が薄い業種では、人件費率は低く見えても労働分配率は高い、ということが起こります。だから売上ではなく粗利を分母にした労働分配率で見るのが要点です。
Industry Benchmark

業種別の「目安レンジ」(一般的な傾向)

下表は、各指標のおおよその目安です。あくまで一般的な傾向であり、自社の適正値とは異なります。同じ業種でも事業モデル・地域・規模で大きく変わるため、必ず自社の決算数値で確認してください。

業種(例)人件費率の目安労働分配率の目安特徴・見方
製造業15〜25%45〜60%設備・原材料費が大きく、人件費率は低めに出やすい。労働分配率で見るのが妥当。
建設業15〜25%40〜60%外注比率が高いと売上比では軽く見えるが、粗利ベースでは重くなりやすい。
小売業10〜20%40〜55%仕入が大きく粗利率が薄い。少しの賃上げでも分配率に効きやすい。
サービス業30〜50%50〜70%人がそのまま商品。もともと労働分配率が高く、賃上げ余地は慎重に見る。
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上記は説明のための一般的な目安レンジであり、公的な基準や保証値ではありません。「労働分配率が目安より低い=もっと上げてよい」「高い=上げてはいけない」と単純に決めるものでもありません。成長投資の局面では一時的に分配率が上がることもあります。判断は自社の決算と事業計画に即して行ってください。
The Hidden Risk

「言い値」で昇給を決める危うさ

「頑張ってくれているから」「辞められたら困るから」「みんな上げているから」。気持ちはわかります。しかし、その都度の感情や交渉で昇給を決めると、上がった給与は翌年も再来年も続く固定費になります。1回の判断が、何年分ものコストを生むのです。

01
決め方
言い値その場の交渉・印象・他社の噂で「とりあえず月1万円」と決める。根拠は社長の感覚。
物差し労働分配率と利益計画から「今期出せる原資はいくらか」を先に決め、その範囲で配分する。
02
時間軸
言い値今年いくら上げるか、だけを見る。来年以降の累積は意識されない。
物差し昇給は固定費の「積み増し」と捉え、数年先まで人件費総額の推移を試算してから決める。
03
業績との関係
言い値売上が伸びても落ちても、いったん上げた給与は下げにくく、丸ごと残る。
物差し基本給の引上げと、業績連動の賞与を分けて設計し、業績悪化時に原資が自動で縮む部分を持つ。
モデル試算で見てみましょう(あくまで一例)。従業員40名の会社で、1人あたり月1万円・年12万円の基本給を一律で引き上げると、年間の人件費増は約480万円。さらに社会保険料の会社負担(おおよそ15%前後)を加えると年間およそ550万円超の増加になります。これが翌年以降も続く前提です。賞与ではなく基本給で上げた分は、業績が落ちても簡単には戻せません。

※上記は説明のためのモデル試算です。実際の負担率・金額は各社の状況により異なります。
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賃下げ・降給は慎重に。いったん上げた給与を下げる「不利益変更」は、労働契約法上、原則として労働者の合意が必要で、就業規則による一方的な引下げにも合理性が求められます。個別の状況により取り扱いは大きく異なりますので、検討する場合は必ず専門家にご相談ください。だからこそ「上げる前の物差し」が重要になります。
Beyond the Average

「全体の物差し」だけでは決めきれない

労働分配率は会社全体の平均です。しかし実際の賃上げは「誰に・いくら」という個別の配分です。全体に余裕があっても、特定の部署や役割に偏って原資を使えば、ひずみが生まれます。そこで役立つのが、もう一段細かい視点です。

原資の総額は「物差し」で決める労働分配率と利益計画から、今期配れる賃上げ原資の上限を先に確定する。
配分は「貢献と成長」で考える同じ昇給でも、成果KPIと成長KPIの両面から見て、納得感のある配分にする。
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個人粒度の採算(社員別ROI)は素材として使う誰がどれだけ付加価値を生んでいるかの可視化は、配置・目標設定・上司の支援を考えるための素材。
個別採算を「責める材料」にしない社員別の数字を降給・解雇の単独根拠にするのは不適切。あくまで育成と配置の判断材料に留める。
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社員別ROI(個人粒度の採算可視化)は、人を数字だけで評価し責めるための資料ではありません。上司がどう支援するか、どこに配置するか、どんな目標を置くかを考えるための素材です。降給・解雇の単独の根拠には用いません。数字(成果KPI)と育ち(成長KPI)の両軸で人を見る、というのがミライズの基本姿勢です。
Funding the Raise

賃上げ原資は「どう作るか」

物差しで「あと少しは出せる」とわかっても、その原資が今のままの利益から出るとは限りません。賃上げを続けられる会社は、原資を「捻出する」のではなく「作る」発想を持っています。順番は、価格・粗利の見直しが先、配分は後です。

1
粗利を確認
労働分配率の分母である粗利の現状を把握する
2
価格・単価を見直す
値上げ・単価改善で粗利そのものを増やせないか検討
3
原資の総額を決める
増えた粗利の範囲で配れる賃上げ原資を確定
4
固定と変動に分ける
基本給(固定)と業績連動賞与(変動)に配分
5
配分・運用
貢献と成長に応じて配り、毎期見直す
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固定費爆発の安全弁=業績連動。賃上げ原資をすべて基本給に乗せると、売上が落ちても人件費は下がらず、固定費が一方向に膨らみます。これを防ぐのが、売上や利益が停滞したときに昇給・賞与の原資が自動的に縮小する「業績連動メカニズム」です。詳しくは 昇給で固定費が"爆発"する前に をご覧ください。賃上げを「コスト」ではなく回収可能な「投資」として設計する考え方は 人件費は"コスト"ではなく"投資" でも解説しています。
自社の数字で確かめませんか。「社長のための人件費成績表(198,000円)」では、御社の人件費率・労働分配率・営業利益率・離職コストなどを可視化し、価格・採用・昇給・賞与の判断材料をご提示します。「どこまで上げてよいか」を感覚ではなく数字で持てるようになります。まずは無料相談から。
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賃上げにあたっては、要件を満たせば活用できる助成金が存在する場合があります。ただし制度の内容・支給要件は頻繁に改正されます。活用を検討する際は、最新の支給要領を必ず確認のうえ、社労士にご相談ください。確実な受給を保証するものではありません。
FAQ

よくある質問

賃上げ・昇給の判断について、経営者の方からよくいただくご質問にお答えします。

Q. 労働分配率の「適正値」はいくつですか?

A. 一律の正解はありません。業種・事業モデル・規模で適正帯は大きく変わり、一般的には40〜60%程度がよく見られるレンジですが、サービス業のように人が商品の業種では高めに出ます。重要なのは他社平均との比較よりも、自社の過去推移と利益計画に照らして「上がりすぎていないか」を見ることです。御社の数値での確認は人件費成績表で行えます。

Q. 賃上げは基本給と賞与、どちらで行うべきですか?

A. 両方を組み合わせるのが基本です。生活の安定や採用力のために基本給を一定程度上げる一方、上げすぎは固定費を膨らませます。そこで業績に連動して原資が増減する賞与を併用し、好調時は手厚く、停滞時は自動的に縮む設計にしておくと、固定費爆発を防ぎやすくなります。配分の最適点は会社ごとに異なります。

Q. 一度上げた給与を、業績が悪化したら下げられますか?

A. 基本給の引下げ(降給・賃下げ)は労働契約法上の「不利益変更」にあたり、原則として労働者の合意が必要で、就業規則による変更にも合理性が求められます。安易な引下げはトラブルの原因になります。個別の状況により取り扱いは異なりますので、必ず専門家にご相談ください。だからこそ、上げる前に物差しで原資を見極め、変動部分(賞与)で調整余地を持っておくことをおすすめします。

「どこまで上げてよいか」を、数字で持ちましょう。賃上げの可否は、感覚や世間相場ではなく、自社の労働分配率と利益計画から判断できます。社会保険労務士法人ミライズ(名古屋)が、御社の数字をもとに賃上げ・昇給・賞与の判断材料をご提示します。
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