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2026.06.22 労務管理

複数拠点の労働保険を本社にまとめる方法|継続事業の一括と事業所非該当承認を社労士が解説

COLUMN / 労務管理

事業が伸びて支店や営業所を増やすと、ある日ふと気づきます。「労働保険の番号も、保険料の申告も、雇用保険の手続きも、拠点ごとにバラバラに増えていく」――。労働保険は会社単位ではなく事業所(拠点)ごとに成立するため、拠点が増えるほど事務が分散していくのです。これを本社に集約するのが「一括」の手続きですが、ここで多くの方がつまずきます。まとめる手続きは1つではなく、2つあるのです。

本記事では、複数拠点をもつ会社が労働保険・雇用保険の事務を本社にまとめるための2つの手続き――「継続事業の一括」と「雇用保険の事業所非該当承認」――について、対象・要件・進め方・つまずきやすい点を、社会保険労務士の視点で整理します。名前が似ていて取り違えやすい2つを、まずはきれいに切り分けるところから始めましょう。

この記事の要点
  • 労働保険は会社単位ではなく事業所(拠点)単位で成立する。支店が増えるほど、保険関係も保険料の申告も拠点の数だけ分散していく。
  • 本社にまとめる手続きは2つある=①「継続事業の一括」(労働保険をまとめる)と②「雇用保険の事業所非該当承認」(雇用保険の被保険者事務をまとめる)。対象も窓口も別物。
  • どちらも自動ではなく、申請して認可・承認を受けて初めて成立する。承認には時間がかかり、通知書・整理番号は再発行されない。
  • 「一括したから全部本社」は誤解。労災の給付請求や雇用保険の資格得喪は集約されないものがある。助成金は事業所単位で申請するものが多く、手続きの抜けがスケジュールを崩す。
目次
  1. 00大前提:労働保険は「会社単位」ではなく「事業所単位」
  2. 01まとめる手続きは2つある(全体像)
  3. 02① 継続事業の一括 ── 労働保険料をまとめる
  4. 03② 雇用保険の事業所非該当承認 ── 被保険者事務をまとめる
  5. 042つを横に並べて比較する(早見表)
  6. 05新しい拠点ができたときの手続きの流れ
  7. 06よくある4つの落とし穴
  8. 07○×でわかる理解チェック

大前提:労働保険は「会社単位」ではなく「事業所単位」

なぜ「一括」という手続きがわざわざ用意されているのか。出発点は、保険関係が成立する“単位”にあります。ここを外すと、その後の話がすべてぼやけてしまうので、まずはここから押さえます。

労働保険(労災保険+雇用保険)の保険関係は、適用事業=働く場所(事業所)ごとに成立します。つまり同じ会社でも、本社・支店・営業所があれば、その数だけ保険関係ができ、労働保険番号も保険料の申告・納付も別々になります。拠点が増えるほど、年度更新も“人数分”ならぬ“拠点数分”になっていくわけです。

本社労保番号 01
支店A労保番号 02
営業所B労保番号 03

一括
指定事業(本社)
労保番号 01 に一本化
02・03 → 消滅/保険料の申告・納付をまとめて処理

原則は「事業所ごと」。一定の要件を満たすと、本社(指定事業)に集約できる。

分散したままでは事務が煩雑です。そこで一定の要件を満たす場合に、手続きを本社等に集約できる仕組みが用意されています。ただし自動ではなく、申請して認めてもらう必要があり、しかも“まとめる対象”の違いによって、手続きが2つに分かれます。次章で、その2本立ての地図を先に渡します。

まとめる手続きは2つある(全体像)

ここがこの記事で一番大切なところです。名前が似ていて取り違えやすいのですが、2つの手続きは対象も窓口も別物です。細部に入る前に、まずはこの2本立ての地図だけを頭に入れてください。細部はそのあとで構いません。

支店・営業所
独立性のない拠点

① 継続事業の一括
労働保険の申告・納付をまとめる

② 事業所非該当承認
雇用保険の被保険者事務をまとめる

本社
指定事業/主たる事業所

対象が違う2本の道。保険料を寄せたいなら①、被保険者事務を寄せたいなら②。両方を本社に寄せたいなら、①と②の両方が必要です。

この「①は保険料、②は被保険者事務」という対象の違いさえ押さえておけば、以降の話はほとんど迷いません。それぞれを、一つずつ見ていきます。

① 継続事業の一括 ── 労働保険料をまとめる

労働保険徴収法 第9条 / 都道府県労働局長の認可
同じ事業主が営む複数の継続事業について、保険関係を1つの「指定事業」に一本化し、労働保険料の申告・納付をまとめて行えるようにする制度です。認可されると、指定事業以外(被一括事業)の保険関係は消滅します。

では、どんな会社でも一括できるのかというと、そうではありません。次の要件をすべて満たす必要があります。

認可の要件(すべて満たす) 補足
事業主が同一人であること 別法人のグループ会社や、事業主が異なる支店は対象外。
それぞれが継続事業であること 建設・林業などの有期事業は対象外(別制度)。
各事業が、次のいずれか1つだけに該当すること ㋐二元適用で労災のみ成立/㋑二元適用で雇用のみ成立/㋒一元適用で労災・雇用とも成立。
労災保険率表の「事業の種類」が同じであること 「保険率」が同じである必要はなく、“事業の種類”が一致していればよい。

地域の制限はなく(東京本社×沖縄支店でも可)、規模(人数)の要件もありません。注意したいのは4つ目で、要件はあくまで「事業の種類」が同じことであって、保険率そのものが一致している必要はない点です(メリット制などで率が違っても、種類が同じならよい)。

認可されると、こうなります。指定事業に保険関係が一本化され、被一括事業の保険関係は消滅します。以後、労働保険料の申告・納付は指定事業の管轄(労働局・労基署)でまとめて処理します。なお年度の途中で一括された場合、指定事業側は規模拡大に伴う増加概算保険料の申告・納付が、消滅した側は確定保険料の精算が必要になることがあります。

一括「されない」もの ── 要注意
手続きが集約されても、次の事務は各事業所(被一括事業)の管轄のままです。本社でまとめて行えると誤解しがちな代表例。
・労災保険の給付請求(二次健診等給付を除く)
・雇用保険の被保険者の資格取得・喪失

② 雇用保険の事業所非該当承認 ── 被保険者事務をまとめる

行政手引 / 管轄ハローワークの承認
独立性のない支店・営業所を「雇用保険の事業所として扱わない(=非該当)」と承認してもらい、被保険者の手続きを本社等でまとめて行えるようにするものです。①が“保険料”の話なのに対し、こちらは“被保険者事務”の話、という点がポイントです。

承認を受けるための基準は、次の通りです。こちらもすべて満たす必要があります。

承認の基準(すべて満たす) 補足
人事・経理・経営(業務)上の指揮監督、賃金の計算・支払などに独立性がないこと ここが一番の判断どころ。常駐役員が1名でもいると認められにくい。
健康保険・労災保険など他の社会保険も主たる事業所で一括処理されていること 本社側に事務が寄っている実態が前提。
労働者名簿・賃金台帳などが主たる事業所に備え付けられていること 帳簿が本社にあること。

満たすかどうかは、最終的にハローワークが審査・判断します(多くの場合、ヒアリング調査があります)。迷う場合は、早めに管轄に確認するのが確実です。

承認されると、こうなります。資格取得・喪失届に加えて、従業員が転勤したときの「雇用保険被保険者転勤届」も不要になり、被保険者の手続きを本社等の管轄ハローワークでまとめて行えます。新設拠点の場合は、「雇用保険適用事業所設置届」の提出も不要です。

①との関係
労働保険について継続事業の一括が認可されている施設は、原則として非該当の基準を満たさなくても扱われます。とはいえ役割は別物です。保険料を寄せたいなら①、被保険者事務を寄せたいなら②、と切り分けて考えてください。

2つを横に並べて比較する(早見表)

ここまでの内容を、一枚の表に整理します。この表が頭に入っていれば、実務で2つを取り違える心配はほぼなくなります。

観点 ① 継続事業の一括
労働保険料/徴収法9条
② 事業所非該当承認
雇用保険/行政手引
まとめる対象 労働保険料(労災・雇用)の申告・納付 雇用保険の被保険者事務(資格得喪・転勤届など)
手続きの性格 都道府県労働局長の認可(申請が必要・自動ではない) 管轄ハローワークの承認(申請が必要)
提出先 指定事業(本社等)を管轄する労基署 対象施設(支店)を管轄するハローワーク
主な要件 同一事業主・継続事業・適用区分が㋐㋑㋒のいずれか・労災の事業の種類が一致 拠点に独立性がない・他の社会保険も本社で一括・帳簿が本社備付け
主な書類 継続事業一括認可・追加・取消申請書(様式第5号)ほか 事業所非該当承認申請書+同 調査書
集約されない事務 労災給付請求・雇用保険の被保険者得喪は各所のまま (雇用保険の被保険者事務を本社へ集約する手続き)

新しい拠点ができたときの手続きの流れ

どちらの手続きも、出発点は同じ「支店で労働保険の保険関係を成立させる」ことです。そこから道が分かれます。順番があるので、ここは番号どおりに進めてください。

① 継続事業の一括
保険料を本社にまとめる手順
  1. 1支店で保険関係を成立させる
    支店の管轄労基署に保険関係成立届(様式第1号)を提出。成立日の翌日から10日以内
  2. 2窓口で一括予定を申し出る
    その場で継続事業一括申請をする旨を伝え、仮保険番号の付与を受ける。
  3. 3認可申請書を提出
    継続事業一括認可・追加・取消申請書(様式第5号)を、指定事業の管轄労基署へ速やかに。
  4. 4審査 → 認可通知
    労働局長が審査。被一括事業に整理番号が付く。認可通知書は再発行されないので保管。
② 事業所非該当承認
雇用保険の被保険者事務を本社にまとめる手順
  1. 1支店で保険関係を成立させる
    こちらも前提は同じ。支店の管轄労基署で労働保険の保険関係を成立させておく。
  2. 2非該当承認を申請
    事業所非該当承認申請書+調査書を、支店(対象施設)の管轄ハローワークへ。本社管轄ではない点に注意。
  3. 3審査・ヒアリング
    独立性の有無を中心に審査。承認まで約2週間〜1か月、県をまたぐとさらにかかる。
  4. 4非該当承認通知書
    届いたら大切に保管。以後、被保険者の手続きは本社のハローワークでまとめて行う。

よくある4つの落とし穴

最後に、実務で事故が起きやすい4つのポイントを挙げておきます。心当たりがあれば、早めに点検しておくと安心です。

落とし穴1:「一括したから全部本社」と思い込む
①を認可されても労災の給付請求雇用保険の被保険者得喪は各事業所のままです。両方を本社に寄せたいなら、①と②の両方が必要。片方だけでは“まとまった気になっている”状態になりがちです。

落とし穴2:助成金の直前に「設置届も非該当もない」
助成金は事業所単位で申請するものが多いものです。支店で適用事業所設置届も非該当承認も出していないと、いざ申請というときにそこから着手することに。教育訓練系では計画届が出せず、申請スケジュールが崩れます。助成金を検討している会社では、特に先に点検しておきたいポイントです。

落とし穴3:承認に時間がかかる前提を置いていない
非該当承認は、結果が出るまで2週間〜1か月、県またぎならさらにかかります。逆算してスケジュールに余裕を。通知書・整理番号は再発行されないため、控えの保管も徹底しましょう。

落とし穴4:「継続事業の一括」と「有期事業の一括」の取り違え
名前は似ていますが、有期事業の一括は建設業など期間の定めのある事業の制度で、要件も効果もまったくの別物です。本記事が扱うのは継続事業の一括。自社の業種で取り違えないように注意してください。

○×でわかる理解チェック

仕上げに、よくある勘違いを○×で確認してみましょう。各問をタップ(クリック)すると解答が開きます。即答できれば、2本立ての地図はしっかり頭に入っています。

Q1.継続事業の一括の認可を受ければ、労災の給付請求も本社でまとめて行える。
解答:× 労災保険の給付請求(二次健診等給付を除く)は、一括されても被一括事業=各事業所の管轄で行います。集約されるのは保険料の申告・納付であって、給付事務ではありません。
Q2.継続事業の一括は、要件を満たせば申請しなくても自動で適用される。
解答:× 法律上当然に一括されるのではなく、都道府県労働局長の認可が必要です。申請して認めてもらって初めて成立します。
Q3.事業所非該当承認の申請書は、本社を管轄するハローワークに提出する。
解答:× 提出先は非該当承認の対象となる支店(施設)を管轄するハローワークです。本社管轄ではない、というのが取り違えやすいポイントです。
Q4.支店の雇用保険の被保険者手続きを本社でまとめたい。必要なのは継続事業の一括である。
解答:× 被保険者事務を本社に集約するのは② 事業所非該当承認の役割。①(継続事業の一括)は保険料の話です。対象の違いを押さえられているかが問われます。
SUMMARY
「まとめる」の正体は、2本の道

労働保険は事業所ごとに成立するため、支店が増えれば手続きは分散します。これを本社に集約する道は2本――①継続事業の一括(労働保険料)と②雇用保険の事業所非該当承認(被保険者事務)。対象も窓口も違い、どちらも申請して認可・承認を受けて初めて成立します。

「一括したから全部本社」という思い込みが最大の落とし穴です。労災給付や被保険者得喪など集約されない事務もあり、助成金は事業所単位の手続きが前提になります。拠点を増やすタイミングは、手続きの設計を見直す好機。迷ったら、早めに専門家に相談してください。

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(参照:労働保険徴収法第9条、厚生労働省「労働保険の成立手続」、各都道府県労働局・ハローワークの案内)

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