Blog & Column

ブログ・コラム

2026.09.21 給与・賃金

賞与規程の定め方|支給日在籍要件と、固定賞与を業績連動に変えるとき

COLUMN / 給与・賃金

「賞与は会社の業績しだい」。そう考えている社長は多いのですが、就業規則の書き方によっては、業績が悪くても払わなければならない賃金になっていることがあります。反対に、書き方を整えておけば、賞与は人件費の中でもっとも柔軟に調整できる部分になります。

本記事では、賞与の支払義務の考え方、賃金規程に書くべきこと、支給日在籍要件、そして固定的な賞与を業績連動に切り替えるときの注意点を、社会保険労務士が整理します。賞与原資を利益から決める考え方は業績連動という安全弁で解説しています。

この記事の要点
  • ✓賞与を払う義務を定めた法律はない。ただし就業規則などで支給条件を確約すると「賃金」になり、払う義務が生じる。
  • ✓賞与を制度として設けるなら、就業規則に記載が必要(労働基準法89条4号)。
  • ✓支給日在籍要件は、就業規則に明記し合理性があれば有効とされている(大和銀行事件・最高裁)。
  • ✓「基本給の○か月分」を確約していた賞与を業績連動に変えるのは不利益変更。同意か、合理性のある就業規則変更が必要。
目次
  1. 00賞与に支払義務はあるのか
  2. 01就業規則(賃金規程)に書くべきこと
  3. 02支給日在籍要件は有効か
  4. 03固定の賞与を業績連動に変えるとき
  5. 04賞与と社会保険の扱い
  6. 05賞与規程を見直すチェックリスト

賞与に支払義務はあるのか

労働基準法には、賞与の支給を義務づける規定はありません。行政通達(昭和22年 発基17号)も、賞与を「支給額があらかじめ確定されていないもの」と位置づけています。

ただし同じ通達は、恩恵的な給付であっても、労働協約・就業規則・労働契約などで支給条件があらかじめ明確に定められているものは賃金に当たるとしています。つまり、義務があるかどうかは、法律ではなく自社の規程と契約の書き方で決まります。

規程の書き方の例 支払義務の考え方
「賞与は、会社の業績等を勘案して支給する。ただし、業績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合には、支給しないことがある」 支給額・支給の有無を会社が判断する余地がある
「賞与は、毎年6月と12月に、基本給の2か月分を支給する」 支給条件が確定しており、賃金として支払義務が生じやすい
実務の注意
規程の文言が柔軟でも、毎年同じ月数を必ず払い続けていると、労使慣行として支給が当然の前提と扱われるおそれがあります。規程と運用をそろえておくことが大切です。

就業規則(賃金規程)に書くべきこと

労働基準法89条4号により、臨時の賃金等(賞与など)を定める場合は、就業規則に記載しなければなりません(相対的必要記載事項)。賃金規程に、少なくとも次の項目を書いておきましょう。

項目 1
支給の有無と時期
支給する時期の目安(例:6月・12月)と、業績などにより支給しない場合があること。

項目 2
算定対象期間
どの期間の勤務と業績を評価するか(例:前年10月〜3月)。

項目 3
支給額の決め方
会社業績・部門業績・個人の評価をどう反映するか。原資の決め方を定めておくと、説明がしやすくなります。

項目 4
支給対象者
支給日に在籍していること、算定期間中の出勤率、試用期間中の扱いなど。

支給日在籍要件は有効か

「支給日に在籍している従業員にだけ賞与を支給する」という定めを、支給日在籍要件といいます。算定期間には働いていたのに、支給日の前に退職した人には払わない、という扱いです。

最高裁は、支給日在籍者にだけ支給するという従来の慣行を就業規則で明文化した事案で、その内容に合理性があるとして、支給日の前に退職した人には受給権がないと判断しています(大和銀行事件・最高裁 昭和57年10月7日判決)。

注意
在籍要件を使うなら、就業規則に明記しておくことが前提です。規程に書かず、その場の判断で退職予定者を外すと、トラブルの原因になります。また、定年退職や会社都合の退職など、本人が退職日を選べない場合の扱いは、事前に方針を決めておきましょう。

固定の賞与を業績連動に変えるとき

最低賃金の上昇が続くなか、固定的に払ってきた賞与を業績に連動する形に変えたいという相談が増えています。人件費の固定部分を増やさずに、稼いだ分を還元できる仕組みだからです。

ただし、「基本給の○か月分」のように支給額を確約していた場合、それを業績連動に変えることは労働条件の不利益変更に当たります。

変更の方法 必要なこと(労働契約法)
従業員の同意による変更 個々の従業員との合意(9条)。内容を十分に説明し、書面で同意を得るのが確実です。
就業規則の変更による変更 変更後の規則の周知と、変更の合理性(10条)。不利益の程度、変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況などで判断されます。

判例は、賃金のような重要な労働条件を不利益に変える場合には、高度の必要性に基づいた合理的な内容であることを求めています(大曲市農協事件・最高裁 昭和63年2月16日判決)。

進め方の例
①賞与原資を粗利・営業利益から決めるルールを示す ②業績が良ければ従来より多く払われる設計にする ③移行期間を設けて段階的に切り替える ④説明会と個別説明を行い、同意書を取る。「下げるための変更」ではなく「稼いだ分を分ける仕組み」だと、数字で説明できることが鍵です。

賞与と社会保険の扱い

賞与を年3回以下支給する場合は、社会保険では「標準賞与額」として保険料を計算し、支給日から5日以内に賞与支払届を提出します。年4回以上支給するものは、賞与ではなく報酬として標準報酬月額の計算に含まれます。

保険 標準賞与額の上限
健康保険(介護保険・子ども・子育て支援金を含む) 年度(4月〜翌3月)の累計で573万円
厚生年金保険 1か月あたり150万円

標準賞与額は、支給額の1,000円未満を切り捨てた額です。届出の実務は賞与支払届とはで解説しています。賞与原資を決めるときは、会社負担の社会保険料(おおむね支給額の15%前後)も含めて考えておくと、予算オーバーを防げます。

賞与規程を見直すチェックリスト

CHECK 1
支給額を確約する書き方になっていないか
「基本給の○か月分を支給する」と書いていないか。業績により支給しない場合の定めがあるか。

CHECK 2
支給日在籍要件を明記しているか
在籍要件、算定期間、出勤率などの支給対象者の条件が規程に書かれているか。

CHECK 3
運用が規程とずれていないか
毎年同じ月数を機械的に払い続けていないか。決定の根拠を記録しているか。

CHECK 4
原資の決め方を説明できるか
粗利や営業利益から原資を決めるルールがあり、社員に説明できるか。自社の人件費の位置は人件費4象限診断で確認できます。

まとめ

賞与に法律上の支払義務はありませんが、就業規則で支給条件を確約すれば賃金になります。賃金規程に支給の有無・算定期間・決め方・支給対象者を定め、支給日在籍要件も明記しておきましょう。固定的な賞与を業績連動に変えるのは不利益変更に当たるため、原資のルールを数字で示し、同意や合理性のある手順を踏むことが大切です。

RELATED
関連記事・ページ

CONSULTING昇給で固定費が爆発する前に|業績連動という安全弁
→


TOOL人件費4象限診断
→


COLUMN賞与支払届とは|社会保険料の計算と提出期限
→


COLUMN雇用契約書・就業規則・労使協定の違いと基本
→
CONTACT
賞与規程、業績に連動できる形になっていますか?

名古屋を拠点に、賞与・昇給のルールを粗利や営業利益と結びつける賃金制度の設計と、規程の改定・従業員への説明までを支援しています。初回相談は無料です。

経営・賃金コンサルティングを見る →

無料相談はこちら
✉ kanri@miriseroumu.com

※本記事は2026年9月時点の法令・通達・判例にもとづく一般的な情報です。賞与の支払義務や規程変更の有効性は、個別の就業規則・労働契約・運用実態により判断が異なります。見直しにあたっては専門家にご相談ください。

« 役員報酬の変更と標準報酬月額|月額変更届と改定のタイミング
運送業の36協定|年960時間の特別条項と様式第9号の3の5の書き方 »
Contact Us

まずは無料でご相談ください。

労務問題・給与計算・助成金など、どんなことでもお気軽にお問い合わせください。

無料相談