Blog & Column

ブログ・コラム

2026.09.19 給与・賃金

ドライバーの賃金制度|2024年問題後の歩合給と残業代の設計

COLUMN / 給与・賃金

2024年4月から、トラックドライバーの時間外労働は年960時間が上限になりました。走れる時間が減ると、残業代で成り立っていたドライバーの手取りも減ります。一方で、歩合給や固定残業代の設計を誤ると、時間を減らしても未払い残業代のリスクは残ったままです。

本記事では、運送業の経営者向けに、2024年問題のあとの賃金制度で押さえるべき計算ルールと、見直しの順番を社会保険労務士が整理します。規制の全体像は運送業の労務・賃金設計のページにまとめています。

この記事の要点
  • ✓時間外労働は年960時間まで。月60時間超の割増率は、中小企業も50%。
  • ✓歩合給(出来高払制)の残業代は、歩合給÷総労働時間で単価を出し、時間外1時間あたり0.25倍を払う。
  • ✓歩合給から残業代相当額を差し引く仕組みは、残業代を払ったことにならない(国際自動車事件・最高裁)。
  • ✓見直しは「払える総額」から。時間だけ削ると、経験のあるドライバーから辞めていく。
目次
  1. 002024年問題で、賃金制度の何が変わったか
  2. 01運送業に多い3つの賃金体系と弱点
  3. 02歩合給の残業代の計算方法(計算例つき)
  4. 03国際自動車事件が示したこと
  5. 04固定残業代を使うときの条件
  6. 05賃金制度を見直す5つの手順

2024年問題で、賃金制度の何が変わったか

トラックドライバーは長く時間外労働の上限規制の適用が猶予されていましたが、2024年4月から、特別条項付きの36協定を結んでも時間外労働は年960時間までになりました。あわせて、改善基準告示も改正され、拘束時間は原則月284時間・年3,300時間、1日の休息期間は継続11時間以上を与えるよう努め、9時間を下回らないことになっています。

賃金の面では、2023年4月から、月60時間を超える時間外労働の割増率が中小企業も50%になりました。長時間の運行ほど人件費が跳ね上がる構造です。

経営への影響
「長く走るほど売上が増え、ドライバーも稼げる」という前提が崩れました。走れる時間に上限がある以上、1時間あたりの付加価値を上げ、その範囲で払える賃金を設計し直す必要があります。

運送業に多い3つの賃金体系と弱点

運送業の賃金体系は、おおむね次の3つか、その組み合わせです。

賃金体系 仕組み 2024年問題後の弱点
月給+残業代 基本給・手当に、実際の時間外労働に応じた残業代を加える 残業が減ると手取りがそのまま減る。月60時間超は50%増しで人件費も重い
歩合給(出来高払制) 運賃収入・運行回数・距離などに応じて支給する 残業代の計算を誤りやすい。歩合から残業代を差し引く設計は無効のリスク
固定残業代 一定時間分の残業代を定額で支給する 明確区分・差額精算の要件を欠くと、手当全体が通常の賃金とみなされる

どの体系にも一長一短があります。大切なのは、体系の名前ではなく、残業代の計算が法令どおりかと、時間が減っても手取りが大きく崩れないかの2点です。

歩合給の残業代の計算方法(計算例つき)

歩合給にも、時間外労働をすれば割増賃金がかかります。ただし、計算方法は月給部分と異なります。

STEP 1
月給部分
基本給など月給部分を月平均所定労働時間で割って時間単価を出し、時間外1時間あたり1.25倍(月60時間超は1.5倍)を払います。

STEP 2
歩合給部分
歩合給の総額を、その月の総労働時間(時間外を含む実際の労働時間)で割って時間単価を出し、時間外1時間あたり0.25倍(月60時間超は0.5倍)を払います。1.0倍分は、すでに歩合給として支払われていると考えるためです。

計算例

基本給20万円(月平均所定労働時間170時間)、歩合給15万円、その月の時間外労働40時間(総労働時間210時間)のドライバーの場合です。

部分 時間単価 割増 残業代(40時間)
月給部分 200,000円 ÷ 170時間 ≒ 1,176.47円 ×1.25 58,824円
歩合給部分 150,000円 ÷ 210時間 ≒ 714.29円 ×0.25 7,143円
合計 65,967円
よくある誤り
歩合給部分にも1.25倍を掛けると、この例では約35,714円となり、約2万8千円の払いすぎです。反対に、歩合給部分の割増を払っていない会社も少なくありません。その場合は毎月7,143円の未払いが積み上がります。端数の処理は就業規則の定めによります。

国際自動車事件が示したこと

タクシー会社の賃金規程をめぐる国際自動車事件(最高裁 令和2年3月30日判決)では、歩合給を計算するときに、残業手当などに相当する額を差し引く仕組みが争われました。この仕組みでは、残業をしてもしなくても支給総額がほとんど変わりません。

最高裁は、このように支払われる手当は時間外労働の対価とはいえず、割増賃金を支払ったことにはならないと判断しました。手当が残業の対価かどうかは、名前や計算式だけでなく、賃金体系全体の中での位置づけから判断されます。

運送業への示唆
トラック運送でも、「残業代を払っているが、総額は歩合で決まっている」という設計は珍しくありません。規程の上では残業代を払っていても、実質的に差し引いているとみなされれば、過去にさかのぼって残業代を請求されるおそれがあります。

固定残業代を使うときの条件

固定残業代は、一定時間分の残業代をあらかじめ定額で支給する仕組みです。運送業でも広く使われていますが、有効と認められるには、通常の賃金と割増賃金の部分が明確に区別されていること、時間外労働の対価として支払われていること、そして固定分を超えた時間の差額を毎月精算していることが前提です。詳しくは固定残業代(みなし残業)の正しい設計で解説しています。

2024年問題のあとは、固定残業代で見込んでいる時間数が、年960時間の上限や改善基準告示と矛盾していないかも確認が必要です。上限を超える時間数を前提にした固定残業代は、労働時間を管理していないことの表れと受け取られかねません。

賃金制度を見直す5つの手順

賃金制度の見直しは、規程の文言から始めると失敗します。次の順番で進めるのがおすすめです。

STEP 1
払える人件費の総額を決める
運賃収入から外部購入費用を引いた付加価値と、労働分配率から、会社が払える人件費の総額を出します。人件費4象限診断で、自社の位置をその場で確認できます。

STEP 2
ドライバーの手取りの目標を決める
時間外労働が減った後も、経験のあるドライバーが辞めない水準を、地域や同業の採用条件から決めます。

STEP 3
賃金の構成比を設計する
基本給・歩合給・固定残業代・手当の比率を見直し、時間が減っても手取りが大きく崩れない組み立てにします。

STEP 4
不利益変更の手順を踏む
賃金を下げる方向の変更が含まれる場合は、変更の合理性と、ドライバーへの説明・同意の手順が必要です。順番を誤ると変更自体が無効になります。

STEP 5
労働時間の管理と給与計算をつなぐ
デジタコや運行記録の時間と、給与計算の時間外労働を同じデータで確認できる状態にし、36協定と改善基準告示の上限を毎月チェックします。

まとめ

2024年問題のあと、運送業の賃金制度は「長く走れば稼げる」前提では成り立たなくなりました。歩合給の残業代は総労働時間で割って0.25倍、歩合から残業代を差し引く設計は避ける、固定残業代は差額精算まで運用する。そのうえで、会社が払える総額から逆算して、時間が減っても人が辞めない賃金を設計することが大切です。

あわせて読みたい

運送業の36協定|年960時間の特別条項と様式第9号の3の5の書き方 →

RELATED
関連記事・ページ

SERVICE運送業の労務・賃金設計
→


COLUMN固定残業代(みなし残業)の正しい設計
→


COLUMN残業代(割増賃金)の計算方法
→


TOOL人件費4象限診断
→
CONTACT
ドライバーの賃金、いまの規程で大丈夫ですか?

名古屋を拠点に、賃金制度の設計から給与計算・社会保険手続きまでを一体で支援しています。歩合給や固定残業代の見直しは、未払いリスクの確認から始めます。初回相談は無料です。

運送業の労務・賃金設計を見る →

無料相談はこちら
✉ kanri@miriseroumu.com

※本記事は2026年9月時点の法令・告示・判例にもとづく一般的な情報です。賃金体系の有効性は、個別の就業規則・運用実態により判断が異なります。見直しにあたっては専門家にご相談ください。

« 夏季休業のお知らせ(8月11日〜8月16日)
キャリアアップ助成金の重点支援対象者とは|a・b・cの判定と受給額 »
Contact Us

まずは無料でご相談ください。

労務問題・給与計算・助成金など、どんなことでもお気軽にお問い合わせください。

無料相談