ドライバーの賃金制度|2024年問題後の歩合給と残業代の設計
2024年4月から、トラックドライバーの時間外労働は年960時間が上限になりました。走れる時間が減ると、残業代で成り立っていたドライバーの手取りも減ります。一方で、歩合給や固定残業代の設計を誤ると、時間を減らしても未払い残業代のリスクは残ったままです。
本記事では、運送業の経営者向けに、2024年問題のあとの賃金制度で押さえるべき計算ルールと、見直しの順番を社会保険労務士が整理します。規制の全体像は運送業の労務・賃金設計のページにまとめています。
- ✓時間外労働は年960時間まで。月60時間超の割増率は、中小企業も50%。
- ✓歩合給(出来高払制)の残業代は、歩合給÷総労働時間で単価を出し、時間外1時間あたり0.25倍を払う。
- ✓歩合給から残業代相当額を差し引く仕組みは、残業代を払ったことにならない(国際自動車事件・最高裁)。
- ✓見直しは「払える総額」から。時間だけ削ると、経験のあるドライバーから辞めていく。
2024年問題で、賃金制度の何が変わったか
トラックドライバーは長く時間外労働の上限規制の適用が猶予されていましたが、2024年4月から、特別条項付きの36協定を結んでも時間外労働は年960時間までになりました。あわせて、改善基準告示も改正され、拘束時間は原則月284時間・年3,300時間、1日の休息期間は継続11時間以上を与えるよう努め、9時間を下回らないことになっています。
賃金の面では、2023年4月から、月60時間を超える時間外労働の割増率が中小企業も50%になりました。長時間の運行ほど人件費が跳ね上がる構造です。
運送業に多い3つの賃金体系と弱点
運送業の賃金体系は、おおむね次の3つか、その組み合わせです。
| 賃金体系 | 仕組み | 2024年問題後の弱点 |
|---|---|---|
| 月給+残業代 | 基本給・手当に、実際の時間外労働に応じた残業代を加える | 残業が減ると手取りがそのまま減る。月60時間超は50%増しで人件費も重い |
| 歩合給(出来高払制) | 運賃収入・運行回数・距離などに応じて支給する | 残業代の計算を誤りやすい。歩合から残業代を差し引く設計は無効のリスク |
| 固定残業代 | 一定時間分の残業代を定額で支給する | 明確区分・差額精算の要件を欠くと、手当全体が通常の賃金とみなされる |
どの体系にも一長一短があります。大切なのは、体系の名前ではなく、残業代の計算が法令どおりかと、時間が減っても手取りが大きく崩れないかの2点です。
歩合給の残業代の計算方法(計算例つき)
歩合給にも、時間外労働をすれば割増賃金がかかります。ただし、計算方法は月給部分と異なります。
計算例
基本給20万円(月平均所定労働時間170時間)、歩合給15万円、その月の時間外労働40時間(総労働時間210時間)のドライバーの場合です。
| 部分 | 時間単価 | 割増 | 残業代(40時間) |
|---|---|---|---|
| 月給部分 | 200,000円 ÷ 170時間 ≒ 1,176.47円 | ×1.25 | 58,824円 |
| 歩合給部分 | 150,000円 ÷ 210時間 ≒ 714.29円 | ×0.25 | 7,143円 |
| 合計 | 65,967円 |
国際自動車事件が示したこと
タクシー会社の賃金規程をめぐる国際自動車事件(最高裁 令和2年3月30日判決)では、歩合給を計算するときに、残業手当などに相当する額を差し引く仕組みが争われました。この仕組みでは、残業をしてもしなくても支給総額がほとんど変わりません。
最高裁は、このように支払われる手当は時間外労働の対価とはいえず、割増賃金を支払ったことにはならないと判断しました。手当が残業の対価かどうかは、名前や計算式だけでなく、賃金体系全体の中での位置づけから判断されます。
固定残業代を使うときの条件
固定残業代は、一定時間分の残業代をあらかじめ定額で支給する仕組みです。運送業でも広く使われていますが、有効と認められるには、通常の賃金と割増賃金の部分が明確に区別されていること、時間外労働の対価として支払われていること、そして固定分を超えた時間の差額を毎月精算していることが前提です。詳しくは固定残業代(みなし残業)の正しい設計で解説しています。
2024年問題のあとは、固定残業代で見込んでいる時間数が、年960時間の上限や改善基準告示と矛盾していないかも確認が必要です。上限を超える時間数を前提にした固定残業代は、労働時間を管理していないことの表れと受け取られかねません。
賃金制度を見直す5つの手順
賃金制度の見直しは、規程の文言から始めると失敗します。次の順番で進めるのがおすすめです。
2024年問題のあと、運送業の賃金制度は「長く走れば稼げる」前提では成り立たなくなりました。歩合給の残業代は総労働時間で割って0.25倍、歩合から残業代を差し引く設計は避ける、固定残業代は差額精算まで運用する。そのうえで、会社が払える総額から逆算して、時間が減っても人が辞めない賃金を設計することが大切です。
名古屋を拠点に、賃金制度の設計から給与計算・社会保険手続きまでを一体で支援しています。歩合給や固定残業代の見直しは、未払いリスクの確認から始めます。初回相談は無料です。
※本記事は2026年9月時点の法令・告示・判例にもとづく一般的な情報です。賃金体系の有効性は、個別の就業規則・運用実態により判断が異なります。見直しにあたっては専門家にご相談ください。