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2026.06.18 労務管理

雇用契約書・就業規則・労使協定の違いと基本|中小企業の労務整備

COLUMN / 労務整備

「人を雇うときに何を書面で渡せばいいのか」「就業規則は本当に作らなければいけないのか」「労使協定はどんなときに必要なのか」。日々の業務に追われていると、こうした労務の土台づくりはつい後回しになりがちです。しかし、雇用契約書・就業規則・労使協定は、トラブルを未然に防ぎ、従業員が安心して働ける職場をつくるための基礎にあたります。書類の不備は、労務トラブル対応が必要になってからでは遅く、平時の備えが何よりの防御になります。

本記事では、中小企業の経営者・人事労務のご担当者に向けて、この3つの書類の基本と実務上の要点を整理します。近年の法改正で明示や記載が義務化された項目も少なくありません。自社の現状と照らし合わせながら読み進めてみてください。

この記事の要点
  • 労務の土台は雇用契約書・就業規則・労使協定の3つ。役割と義務の重さが異なり、効力にも序列がある。
  • 雇用契約書には必ず書く項目があり、2024年4月から「変更の範囲」の明示などが義務化された。
  • 就業規則は常時10人で作成・届出が義務。周知は単なる手続きではなく効力の要件でもある。
  • 36協定など労使協定が必要な場面を把握し、未締結・期間切れによる違法状態を防ぐ。
目次
  1. 01法令に則った労務環境とは ― 3つの書類の関係
  2. 02雇用契約書 ― まず押さえる「必ず書く項目」
  3. 03就業規則 ― 作成義務と「いつでも見られる」状態づくり
  4. 04労使協定 ―「いつ必要か」を一覧で確認する
  5. 05実務上の注意点
  6. 06まとめ ― まず取りかかる3つの点検ポイント

法令に則った労務環境とは ― 3つの書類の関係

働きやすい職場の土台は、法令に則った労務環境を整えることにあります。具体的には、就業規則・雇用契約書・労使協定関係の書類を法律どおりに作成し、適切に保管・周知している状態を指します。とくに就業規則は、従業員がいつでも閲覧できるようにしておくことが求められます。

これらは「とりあえず作ってある」だけでは不十分で、記載すべき内容を網羅しているか、最新の法改正に対応しているか、きちんと保管・周知されているかまでが問われます。まずは全体像を押さえましょう。土台となる3つの書類は、それぞれ役割と義務の重さが異なります。

書類 役割 作成・届出の位置づけ
① 雇用契約書(労働条件通知書) 人を雇うときに労働条件を明示する書面 記載すべき項目が法令で定められている
② 就業規則 職場のルールを定める書面 常時10人以上の事業場で作成・届出が義務。周知も必要
③ 労使協定 従業員と会社の約束事を定める書面 36協定など、場面ごとに締結・届出する

「違い」を理解するうえで押さえておきたいのが、これらの効力の序列です。一般に、効力の強い順に〈法令 > 労働協約 > 就業規則 > 雇用契約書〉という関係にあります。たとえば就業規則を下回る労働条件を定めた雇用契約は、その下回る部分について無効となり、無効となった部分は就業規則の基準によることになります(労働基準法第93条・労働契約法第12条の趣旨)。3つは別々に存在するのではなく、上位の基準が下位を支える入れ子の関係になっている、と捉えると整理しやすくなります。

効力の序列 ― 上位の基準が下位を下回る部分を無効にする

法令

労働協約

就業規則

雇用契約書
就業規則を下回る雇用契約は、その部分が無効となり就業規則の基準が適用される

雇用契約書 ― まず押さえる「必ず書く項目」

従業員を雇用する企業は、原則として従業員と労働契約を結びます。その際、労働条件を明示した書面を作成し、保管しておくことが必要です。雇用契約書(労働条件通知書)には、記載すべき項目が法令で定められています。

正社員の場合に必ず記載する事項

次の項目は、必ず明示しなければならない事項です。自社の雇用契約書を実際に確認してみてください。

制度を設ける場合に記載する事項

退職手当、賞与、従業員に負担させる費用、安全衛生、職業訓練、災害補償、表彰・制裁、休職などについては、その制度を設けている場合に限り記載が必要です。これらは就業規則で該当する条文を明らかにし、就業規則を交付すれば、雇用契約書に同じ内容を重ねて書面化する必要はありません。

ここで注意したいのが近年の改正です。2024年4月1日以降に締結する契約からは、就業の場所・業務について「変更の範囲」までを、すべての従業員に明示することが必要になりました。採用時点の場所・業務だけでなく、将来的に配置転換などで変わりうる範囲を示す必要があります。テレワークを導入している、あるいは予定している会社では、就業場所の変更の範囲として自宅やサテライトオフィス等が含まれることを示しておくと、現状の働き方に即した明示になります。

パート・アルバイトに追加で必要な事項

正社員より短い時間で働くパート・アルバイトの場合は、上記に加えて次の4点の明示が求められます。

有期契約の従業員に必要な事項

契約期間に定めのある有期契約の従業員(有期契約のパート・アルバイトを含む)には、さらに次の点を明示します。

このうち更新上限と無期転換に関する明示は、2024年4月1日以降に必須となりました。更新上限を新たに設けたり短縮したりする場合は、その理由をあらかじめ説明することも求められます。

メールやSNSでの通知について

2019年4月からは、労働条件の通知をメール、FAX、SNSのメッセージ機能で行うことも認められています。ただし、これは従業員本人が希望した場合に限り、かつ出力して書面化できる形であることが条件です。第三者が閲覧できるブログや個人サイトへの書き込みによる通知は認められません。なお、雇用契約書(労働条件通知書)は、交付日から3年間の保管が必要とされています。

就業規則 ― 作成義務と「いつでも見られる」状態づくり

就業規則は、常時10人以上の従業員を使用する事業場で作成と届出が義務づけられています(労働基準法第89条)。作成・変更したら、所轄の労働基準監督署長へ届け出る必要があります。事業場単位で判断する点に注意してください。なお、就業規則の作成・届出義務に違反した場合は労働基準法違反となり、罰則の対象になり得ます。「うちはまだ大丈夫」と放置している間に、人数要件を満たしながら未作成のまま、という状態は避けたいところです。

従業員が10人未満の事業場には作成義務はありませんが、職場のルールを明確にする観点から作成しておくことが望ましく、作成した場合はいつでも閲覧できるようにしておく必要があります。

事業場の規模(常時使用する従業員数) 作成・届出の義務 対応のポイント
10人未満 作成義務なし 作成しておくことが望ましく、作成したらいつでも閲覧できる状態にする
10人以上 作成・届出が義務(労働基準法第89条) 作成・変更したら所轄の労働基準監督署長へ届出

そして見落とされがちなのが「周知」です。作成・届出をして終わりではなく、従業員に内容を知らせる義務があります。具体的には次のような方法があります。

派遣従業員のように派遣先で働くことが多い場合は、立ち寄る機会が少ないため、できるだけ個別に配付するか、電子媒体で常時確認できるよう整えておくとよいでしょう。

この「周知」は、単なる事務手続きにとどまりません。判例上、就業規則が労働者を拘束する(=会社が就業規則の内容を従業員に対して主張できる)ためには、その内容が従業員に周知されていることが必要とされています。言い換えれば、周知を欠いた就業規則は、いざというときに「定めてあったはず」の内容を従業員に主張できない場合がある、ということです。周知は効力にかかわる要件でもある、と理解しておきましょう。

就業規則は「作って届け出て終わり」ではなく、周知されてはじめて現場で効力を持つ。

もう一点、見直しの局面にも注意が必要です。就業規則を変更する場合、とくに労働条件を従業員に不利益に変更する場合には、変更内容に合理性が問われるうえ、変更後の内容を従業員に周知することが効力発生の前提になります。作って終わりではなく、改定のたびに周知までを一巡させる必要があるのです。記載漏れや法改正への未対応が不安な場合は、専門家による就業規則の作成・見直しを検討されることをおすすめします。なお、就業規則や後述の36協定の届出は、e-Gov を利用した電子申請でも行えます。複数拠点をまとめて手続きする際などは、効率化の観点からも選択肢になります。

労使協定 ―「いつ必要か」を一覧で確認する

労使協定とは、従業員と会社との約束事を定めた書面です。労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその組合と、ない場合は労働者の過半数を代表する者(従業員代表)と使用者とが、書面で締結します。

労使協定には、締結だけで足りるものと、労働基準監督署への届出まで必要なものがあります。代表的なものを整理すると次のとおりです。

労使協定は「締結だけで足りるもの」と「届出まで必要なもの」に分かれる

締結
まず従業員代表と書面で締結
過半数労働組合があればその組合、なければ労働者の過半数代表者(従業員代表)と締結する。

届出
種類によっては労働基準監督署へ届出
36協定などは届出が必須。締結だけで足りるものもあり、下表の「届出」欄で確認する。

労使協定の種類 概要 届出
時間外・休日労働に関する協定(36協定) 法定労働時間を超える残業や法定休日の労働をさせる場合に必須。届出がないと残業・休日出勤は違法となる 必要
賃金の口座振込 給与を銀行口座振込にする場合に必要。一般的な取扱いだが締結漏れが見られる 不要
賃金からの法定控除以外の控除 親睦会費・社宅家賃・団体保険料など、会社独自のルールで給与から控除する場合に必要 不要
1か月単位の変形労働時間制 採用していて就業規則に定めがない場合に必要(就業規則に記載があれば届出不要) 場合による
1年単位の変形労働時間制 採用するにあたって締結する 必要
フレックスタイム制 導入するにあたって締結する 不要
事業場外みなし労働時間制 外勤などで労働時間を算定しにくい場合に導入(協定の時間が法定労働時間を超える場合は届出必要) 場合による
専門業務型裁量労働制 研究開発職やシステムコンサルタントなど、対象業務に就かせる場合に必要 必要
休憩の一斉付与の例外 全従業員に一斉に休憩を与えない場合に必要(一部業種は適用除外) 不要
年次有給休暇の計画的付与 有給休暇をあらかじめ計画的に付与する場合に締結 不要
育児・介護休業の対象者の限定 入社1年未満の従業員などを制度の対象から除外する場合に必要 不要

このほかにも、従業員の貯蓄金の管理、1週間単位の非定型的変形労働時間制(30人未満の小売業・旅館・飲食店など)、半日単位の年次有給休暇、子の看護・介護休暇の時間単位取得や所定外労働の制限の対象限定、月60時間超の残業に対する代替休暇など、さまざまな場面で労使協定が登場します。

とくに専門業務型裁量労働制については、2024年4月1日以降、本人の同意や同意撤回の手続き、それらの記録の保存に関する項目を労使協定に追加することが必要になりました。すでに導入している企業も、協定の見直しが求められます。

注意
36協定は労働基準法上の規制です。協定を締結・届出しないまま法定労働時間を超える残業や法定休日労働をさせると労働基準法違反となり、罰則の対象になり得ます。「実際に残業はしているのに36協定がない」「有効期間が切れたまま」という状態は、それだけで違法状態になりかねません。日々の給与計算・社保手続きのアウトソーシングを活用し、協定の締結漏れや有効期間切れを実務の流れの中で防ぐ方法もあります。

実務上の注意点

書類を整えるうえで、つまずきやすいポイントを挙げておきます。

まとめ ― まず取りかかる3つの点検ポイント

雇用契約書・就業規則・労使協定は、いずれも「働きやすい職場の土台」を支える書類です。法令遵守とは、単に法律や社内ルールを守ることだけでなく、社会通念上当然にすべきこと・してはならないことを守る、という広い意味を含みます。

まずは自社の雇用契約書を一度引き出して記載項目を確認し、就業規則の周知状況をチェックし、必要な労使協定が締結・保管されているかを点検することから始めてみてください。書類の整備は、トラブルが起きてからでは遅く、平時に進めておくことが何よりの備えになります。

まず取りかかる3つの点検ポイント

1
雇用契約書の記載項目を確認
一度引き出して、必ず記載する事項が網羅されているか、現在の明示義務を満たしているかを見る。

2
就業規則の周知状況をチェック
配付・掲示・電子データなど、従業員がいつでも内容を確認できる状態になっているかを確かめる。

3
必要な労使協定の締結・保管を点検
36協定の有効期間切れや口座振込の協定漏れなど、必要な協定が締結・保管されているかを点検する。

SUMMARY
「作ってある」から「今の法令に合っている」へ

雇用契約書・就業規則・労使協定は、それぞれ役割と義務が異なり、効力にも〈法令>労働協約>就業規則>雇用契約書〉という序列があります。必ず書く項目、就業規則の作成・届出と周知、36協定など必要な労使協定――いずれも「作って終わり」ではなく、法改正への対応と周知まで一巡させてはじめて意味を持ちます。

書類の不備は、調査やトラブルが起きてからでは取り返しがつきにくいもの。まずは自社の現状を一度棚卸しし、3つの点検ポイントから確認してみることをおすすめします。

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