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2026.06.18 労務管理

労働保険の年度更新 令和8年度版|計算手順と7月10日締切を解説

COLUMN / 労働保険

毎年6月になると、労働局から緑色の封筒が届きます。中に入っているのが「労働保険 概算・確定保険料申告書」。これを使って行うのが、いわゆる年度更新です。「数字が並んでいて難しそう」「経理任せでよく分からない」という声をよく耳にしますが、しくみさえつかめば、流れ自体はとてもシンプルです。

令和8年度(2026年度)の申告・納付期間は2026年6月1日(月)から7月10日(金)まで。労働者を雇用するすべての事業主が対象となる、年に一度の大切な手続きです。本記事では、はじめての方でも自分の手で進められるよう、基本のしくみから計算の手順、つまずきやすいポイントまでを社会保険労務士の視点でやさしく整理します。

この記事の要点
  • 令和8年度の申告・納付は2026年6月1日〜7月10日。年度更新は「昨年度分の精算」と「新年度分の前払い」を同時に行う手続き。
  • 令和8年度の改定点は雇用保険率が一般の事業で1.35%へ引き下げ(2年連続)。労災保険率・一般拠出金率は据え置き。
  • 計算は賃金集計→料率確認→確定→概算→精算の5ステップ。カギは賃金集計の「含む/含まない」と対象者の範囲。
目次
  1. 01そもそも「労働保険」とは
  2. 02年度更新は「精算」と「前払い」を同時に行う手続き
  3. 03自社は「一元適用」か「二元適用」か
  4. 04計算は5つのステップで進む
  5. 05はじめての事業所・年度途中で成立した場合
  6. 06納付・申告の実務ポイント
  7. 07公的なサポート窓口を活用する
  8. 08つまずきやすいポイント(よくあるミス)
  9. 09まとめ

令和8年度の申告・納付期間

6月1日(月)開始
7月10日(金)締切

この期間に「昨年度分の精算」と「新年度分の前払い」を同時に申告・納付します

そもそも「労働保険」とは

労働保険とは、労災保険雇用保険の2つをまとめた呼び方です。守る場面や保険料の負担に、それぞれ違いがあります。

「労働保険」は2つの保険の総称です

労働保険
労災保険
仕事中・通勤中のケガや病気、障害、死亡に備える
保険料は全額を事業主が負担

雇用保険
失業給付、育児・介護休業給付、教育訓練などに備える
事業主と労働者で分担

この2つの保険料を、1年に1回まとめて精算・前払いするのが年度更新

2つの保険のちがいを、表で整理しておきましょう。

比較項目 労災保険 雇用保険
守る場面 仕事中・通勤中のケガや病気、障害、死亡 失業給付、育児・介護休業給付、教育訓練など
対象 すべての労働者(パート・アルバイト含む) 週20時間以上など要件を満たす人
保険料の負担 全額を事業主が負担 事業主と労働者で分担

この2つの保険料を、1年に1回まとめて精算・前払いするのが年度更新です。

年度更新は「精算」と「前払い」を同時に行う手続き

労働保険料には、ひとつ大きな特徴があります。それは、保険料が賃金が確定して初めて決まるという点です。賃金は1年間分が支払い終わるまで総額が分かりません。そこで採られているのが「後払い精算」のしくみです。

「後払い精算」のしくみ

① 概算で前払い
年度のはじめに見込みの賃金で1年分を計算して納める

② 確定で計算
年度が終わったら実際に支払った賃金で正しい保険料を計算

③ 差額を精算
概算と確定の差を過不足として調整する

保険年度は4月1日から翌年3月31日まで。この1年が終わったあと、6月1日〜7月10日の期間に「昨年度分の精算」と「新年度分の前払い」を同時に申告・納付します。だから毎年くり返す必要があるのです。

申告書には「申告済概算保険料」があらかじめ印字されています。前年に前払いした額が記入済みで届くため、その金額を今年の確定額と突き合わせて精算し、新しい概算を次年度へ繰り越していく――この一連の流れが、毎年ところてんのように続いていくイメージです。

年度更新の幹は「概算で前払い → 確定で精算 → 差額を調整」。この一文さえ押さえれば、申告書の数字は迷わず追える。

自社は「一元適用」か「二元適用」か

事業の種類によって、労災保険と雇用保険を「まとめて申告」するか「別々に申告」するかが分かれます。

区分 一元適用事業 二元適用事業
主な業種 ほとんどの一般の会社 建設・農林水産・港湾・自治体など
申告のしかた 労災と雇用を1つにまとめて申告 労災と雇用を別々に申告
労働保険番号・申告書 いずれも1つ 申告書は複数枚
届く封筒 緑色が1通 緑(労災)と青(雇用)に分かれる

分かれる理由は、保険の「単位」の考え方が違うからです。労災は「仕事をする場所・現場」を単位にとらえます。一方、雇用保険は「雇用関係のある会社」が単位です。多くの会社では場所と会社が一致するため一元適用になりますが、建設業のように1つの現場に複数社が混在し、社員が複数の現場を行き来する業種では単位が合わず、別々に扱う二元適用となります。

なお建設業の二元適用では、現場労災について元請が下請分も含めて一括で申告するのが原則です。このとき、作業員一人ひとりの賃金を積み上げる代わりに、工事の請負金額に「労務費率」を掛けて賃金総額を推計する方法が用いられます。一般の賃金集計とは考え方が異なるため、建設業の事業主は自社がどの計算方法に当てはまるかを早めに確認しておくと安心です。

計算は5つのステップで進む

難しく見える年度更新も、分解すれば次の5ステップです。順番に見ていきましょう。

計算の5ステップ

1
賃金総額を集計する
前年度に支払った賃金を賃金台帳から足し上げる(賞与・通勤手当も含める)
2
保険料率を確認する
令和8年度の労災保険率・雇用保険率・一般拠出金率を確認
3
確定保険料を計算する
実際に支払った1年分の賃金で計算した「正しい保険料」
4
概算保険料を計算する
新年度の見込み賃金(原則は前年度と同額)で計算する前払い額
5
申告・納付する(差額の精算)
納付額=新年度の概算+前年度の精算(過不足)+一般拠出金

STEP1 賃金総額を集計する

すべての計算の出発点は、「保険料 = 賃金総額 × 料率」という式です。まずは前年度(前年4月1日〜当年3月31日)に支払った賃金を、賃金台帳をもとに毎月の給与と賞与まで足し上げます。

ここで威力を発揮するのが、毎月きちんと整えられた賃金台帳です。月々の支給項目が正しく区分されていれば、年度更新の集計は転記するだけでほぼ完了します。逆に台帳が曖昧だと、1年分をさかのぼって突き合わせる手戻りが発生します。日常の集計まで含めて負担を減らしたい場合は、給与計算・社会保険手続きの代行を活用し、台帳整備と年度更新をひとつの流れにしておくと精度もスピードも上がります。

ここで最もミスが多いのが、賃金に「含むもの」「含まないもの」の判断です。

賃金に含むもの 賃金に含まないもの
基本給・固定給 役員報酬(労働の対償でない分)
通勤手当 退職金
時間外・休日手当 結婚祝金・見舞金(恩恵的なもの)
家族・住宅・役職手当 出張旅費・実費弁償
賞与(特に忘れやすい) 解雇予告手当・休業補償費

特に賞与と通勤手当は集計に含めます。「ボーナスは別物」と思い込んで漏らしてしまう例が後を絶ちません。なお、手当の名称や支給ルールが曖昧だと、含む・含まないの判断そのものがブレて集計ミスにつながります。各種手当の性格を整理し、賃金・手当の整理と就業規則の見直しを通じて賃金規程として明文化しておくと、毎年の年度更新が安定します。

もうひとつ注意したいのが、対象となる労働者の範囲です。労災保険は正社員・パート・アルバイト・日雇いまで全員が対象で、労働時間の長短は問いません。一方、雇用保険は週の所定労働時間20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがある人が対象で、昼間学生は原則対象外です。労災用と雇用用で対象者が異なるため、賃金集計は2種類に分けて行います。

役員については、原則として「労働者」ではないため対象外で、役員報酬は賃金総額に含めません。ただし、部長などの従業員としての地位も持つ「使用人兼務役員」の場合は、労働者として支払われる賃金部分だけを集計に含めます(役員報酬部分は除く)。

補足|算定基礎賃金集計表について
紙で申告する場合は、賃金を集計するための「算定基礎賃金集計表」を作成して手元で整理します(申告書への添付は不要です)。一方、e-Gov(電子申請)では集計表そのものを提出様式として送る必要はなく、集計した結果の数値を申告書に入力します。「集計表を必ず提出するもの」と誤解しがちですが、いずれの方法でも手元で集計を整えることが本質である点は変わりません。

STEP2 保険料率を確認する(令和8年度)

令和8年度の主な料率は、次のとおりです。

料率の種類 料率 負担 備考
労災保険率 業種別に2.5〜88/1,000 全額を事業主が負担 令和7年度から据え置き
雇用保険率(一般の事業) 13.5/1,000 労働者5/事業主8.5 令和7年度から引き下げ
一般拠出金率 0.02/1,000(全業種一律) 全額を事業主が負担 石綿(アスベスト)健康被害の救済に充当

雇用保険率は、事業の種類によってさらに分かれます。

事業の種類 労働者負担 事業主負担 合計
一般の事業 5/1,000 8.5/1,000 13.5/1,000
農林水産・清酒製造 6/1,000 9.5/1,000 15.5/1,000
建設の事業 6/1,000 10.5/1,000 16.5/1,000

令和8年度の改定ポイントは、雇用保険率の引き下げです。一般の事業で前年の1.45%から1.35%へと下がりました(2年連続の引き下げ)。引き下げ分0.1%は労働者・事業主で0.05%ずつ軽減されています。労災保険率と一般拠出金率は変更なしです。給与計算ソフトを使っている場合は、新しい料率への設定変更を忘れずに行いましょう。料率はソフトのバージョンや設定で自動更新されないこともあるため、年度更新前のデータ点検が欠かせません。

STEP3 確定保険料を計算する

確定保険料は、実際に支払った1年分の賃金で計算した「正しい保険料」です。たとえば小売業(その他の各種事業)で従業員10名、年間賃金総額3,000万円のケースを考えてみます(労災率3/1,000、雇用率13.5/1,000、一般拠出金0.02/1,000と仮定)。

区分 計算式(賃金総額 × 料率) 保険料
労災保険料 3,000万円 × 3/1,000 90,000円
雇用保険料 3,000万円 × 13.5/1,000 405,000円
一般拠出金 3,000万円 × 0.02/1,000 600円
確定保険料 合計 495,600円

STEP4 概算保険料を計算する

概算保険料は、新年度の「見込み賃金」で計算する前払い額です。見込み賃金は、原則として前年度の賃金総額と同額でかまいません。前年度の2倍を超える、または2分の1を下回る見込みのときだけ、その見込額を使います。先ほどの例なら、労災90,000円+雇用405,000円で概算保険料は495,000円。なお一般拠出金は概算では計算せず、確定のときだけ計上します。

STEP5 申告・納付する(差額の精算)

最後に、納付額を確定します。式は「納付額 = 新年度の概算 + 前年度の精算(過不足)+ 一般拠出金」です。前年度の概算と確定の差によって、3パターンに分かれます。

前年度の状況 意味 精算のしかた
不足(確定 > 概算) 前払いが足りなかった 不足分を追加で納付する
超過(確定 < 概算) 払いすぎていた 新年度概算に充当するか、還付を受ける
同額(確定 = 概算) 過不足なし 新年度概算のみを納付する

はじめての事業所・年度途中で成立した場合

これから初めて人を雇う会社や、設立して間もない事業所では、「そもそも申告書が届いていない」というケースがあります。年度更新は、すでに労働保険の保険関係が成立している事業所に対して毎年行われる手続きだからです。

労働者を一人でも雇い入れたら、まずは「保険関係成立届」を提出し、あわせて初年度分の概算保険料を申告・納付するところから始まります。これが済んで初めて労働保険番号が付与され、翌年以降は年度更新の対象として緑色の封筒が届くようになります。年度の途中(たとえば10月)に成立した場合は、その成立日から年度末(3月31日)までの期間に対応する概算保険料を計算して納める流れです。

つまり、創業期や設立期の事業所では「成立届 → 初年度の概算納付 → 翌年から年度更新」という順番をたどります。最初の年だけは流れが通常と異なるため、自社が今どの段階にいるのかを整理しておくと、手続きの抜け漏れを防げます。

納付・申告の実務ポイント

分割納付(延納)も使える

次のいずれかに当てはまれば、保険料を3回に分けて納付できます。

3回の納期限は、おおむね次の日程が目安です(年によって前後します)。

区分 納期限の目安
第1期 7月10日
第2期 10月31日
第3期 翌年1月31日

なお、口座振替を利用すると、各期の実際の引落日は窓口納付の納期限よりも後ろ倒しになります。手続きにかかる時間を確保するためのしくみで、資金繰りの面でも数週間の余裕が生まれます。引落日は年ごとに公表されるため、利用している事業所は当年の案内で日程を確認しておくとよいでしょう。

電子申請という選択肢

申告書は紙の緑色の用紙のほか、e-Gov(電子申請)でも提出できます。GビズIDなどを使えばオンラインで申告でき、電子納付にも対応。受付期間中は24時間いつでも申請でき、控えがデータで残るのも利点です。窓口に出向く手間を減らしたい事業者には有力な選択肢です。

GビズIDの取得やデータの整え方、電子申請を毎年の運用として定着させるところまでを含めて整備したい場合は、給与・労務のDX化として支援しています。紙運用から電子申請へ移行しておくと、年度更新だけでなく日々の各種届出も効率化できます。

公的なサポート窓口を活用する

年度更新は自社で進められる手続きですが、判断に迷ったときに頼れる無料の公的サポートも用意されています。

これらは無料で利用できるため、はじめての方や年に一度だけ作業する担当者にとって心強い味方です。具体的な電話番号や日程は年度ごとに変わるので、必ず厚労省・管轄労働局の最新の公表情報を確認してください。

つまずきやすいポイント(よくあるミス)

  1. 賃金集計の漏れ:賞与・通勤手当・年度途中の入退社者を入れ忘れる。
  2. 対象者の範囲ミス:労災(全員)と雇用(週20時間以上)の対象者を混同する。
  3. 料率の適用ミス:業種判定の誤りや、前年度の料率をそのまま使ってしまう。令和8年度は雇用保険率が変わっているので特に注意。
  4. 一般拠出金の計上漏れ:金額が小さく見落としやすいので、確定保険料と必ずセットで計算する。
  5. 申告・納付の期限超過:7月10日を過ぎると、不足額に対する追徴金(10%)や延滞金が発生します。
SUMMARY
押さえるのは「集計」と「料率」と「締切」

年度更新の幹は、概算で前払い → 確定で精算 → 差額を調整という流れです。カギになるのは賃金集計と対象者の範囲。労災は全員、雇用は週20時間以上、そして賞与・通勤手当も忘れず含める――ここを押さえれば、計算は機械的に進められます。

令和8年度のポイントは、雇用保険率が1.35%に引き下げられたこと、労災保険率と一般拠出金率は据え置きであること、そして締切が7月10日であることの3点です。

まとめ

年度更新は、毎年くり返される定例の手続きです。だからこそ、月々の賃金台帳がきちんと整っていれば、集計は正確かつ短時間で済みます。日常の給与計算や社会保険手続きそのものを見直したい場合は、給与計算・社会保険手続きの代行を入口に、台帳整備から年度更新までを一つの流れにしておくと毎年の負担が大きく軽くなります。

とはいえ、業種判定や使用人兼務役員の扱い、年度途中の事業内容の変更、二元適用や年度途中の成立など、判断に迷う場面も出てきます。「自社の集計はこれで合っているか」「正しい料率を適用できているか」を一度確認しておくと安心です。少しでも不安があれば、労働保険の年度更新を社労士に相談してください。当法人では、賃金台帳の確認から申告書の作成、電子申請・納付のご案内まで一貫してサポートしています。

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