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2026.06.18 給与・賃金

役員報酬と社会保険料の関係|標準報酬月額の仕組みと手取り設計

COLUMN / 給与・賃金

「役員報酬を少し上げたら、思っていた以上に社会保険料が増えてしまった」——中小企業の経営者や人事労務のご担当者から、こうしたご相談をよくいただきます。給与や役員報酬の金額は、手元に残る「手取り」だけでなく、健康保険・厚生年金といった社会保険料の負担額にも直結します。しかも所得税とは異なる独特の計算ルールがあるため、金額の決め方によっては「数千円の差で年間の負担が大きく変わる」ことも珍しくありません。

本記事では、報酬設計と社会保険料の関係を、制度の正しい理解という観点から中立的に整理します。節税スキームの指南ではなく、「仕組みを知ったうえで適正に選ぶ」ための基礎知識としてお読みください。

この記事の要点
  • 社会保険料は実際の報酬額ではなく「標準報酬月額」の等級・帯域制で決まり、境界を1円またぐだけで一段ジャンプする。
  • 健康保険と厚生年金で上限が異なり(厚生年金65万円・健康保険139万円)、高報酬帯では「頭打ち」が生じる。
  • 報酬額と手取りは比例しない。報酬を低く抑えれば将来の年金や給付も目減りし、賞与への過度な寄せは調査リスクを伴う。
目次
  1. 01社会保険料は「標準報酬月額」で決まる
  2. 02報酬に「含まれるもの」「含まれないもの」
  3. 03「たった数千円」で負担が変わる等級の段差
  4. 04社会保険料には「上限(天井)」がある
  5. 05手取り率は一定ではない
  6. 06報酬を「低く抑える」ことのデメリット
  7. 07実務で見落としやすい届出のポイント
  8. 08報酬決定前のチェックリスト
  9. 09まとめ

社会保険料は「標準報酬月額」で決まる

社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)の金額は、実際の報酬額そのものではなく、「標準報酬月額」という区分にあてはめて計算されます。流れは大きく3つのステップです。

標準報酬月額が決まるまでの3ステップ

1
報酬月額を確認する
基本給+各種手当(役職・資格・家族・住宅)+通勤手当+現物給与(社宅・食事提供等)を合算します。
2
等級表にあてはめる
報酬月額を、一定の幅(帯域)ごとに区切られた等級表に照らし、標準報酬月額を特定します。
3
保険料率を掛ける
確定した標準報酬月額に、健康保険・厚生年金それぞれの保険料率を適用して保険料を算出します。
2026年度(令和8年度)の動向
保険料率は毎年度見直されます。近年は介護保険料率の引き上げに加え、子ども・子育て支援金の新設(医療保険料に上乗せして段階的に導入される労使折半の負担)など、足元のコスト増要因が続いています。具体的な料率は協会けんぽや加入する各健保組合の最新公表値をご確認ください。

所得税との決定的な違いは「帯域制」

ここで押さえておきたいのが、所得税との計算方法の違いです。

つまり社会保険料は、報酬がある金額の帯に収まっていれば同じ負担額ですが、境界線を1円でも越えると次の等級に上がり、保険料が段階的に増えます。「階段状」に負担が変わるイメージです。

「連続的に増える所得税」と「階段状に増える社会保険料」の違い

所得税:おおむね連続

所得に応じて、なめらかに増えていく。

社会保険料:帯域制(階段状)

境界をまたぐと一段ジャンプ。同じ帯の中なら負担は同じ。

もう一つ見落としやすいのが通勤手当の扱いです。通勤手当は一定額まで所得税が非課税ですが、社会保険料の算定では報酬に含めて計算します。所得税の感覚だけで考えていると、社会保険上の等級を読み違える原因になります。

報酬に「含まれるもの」「含まれないもの」

標準報酬月額を正しく把握するには、何が算定対象になるかの線引きが重要です。

含まれる(算定対象) 含まれない(算定対象外)
基本給・役職手当・資格手当 結婚祝金・見舞金・弔慰料
家族手当・住宅手当 出張旅費・実費弁償的なもの
通勤手当(非課税分も算入) 解雇予告手当・退職手当
現物給与(社宅・食事提供等) 年3回以下の賞与(別途計算)

賞与については注意が必要です。年3回以下の賞与は標準報酬月額とは別に「標準賞与額」として計算されますが、年4回以上支給される賞与は「報酬」として扱われ、標準報酬月額に加算されます。賞与の支給回数の設計は、社会保険料の計算区分そのものに影響するため、運用前に確認しておきたいポイントです。

標準賞与額にも上限がある

賞与から徴収される社会保険料の基礎となる「標準賞与額」には、月額の報酬とは別に上限が設けられています。厚生年金は1回(1か月)あたり150万円、健康保険は年度の累計573万円が上限です(数値は公的資料の最新値をご確認ください)。月額報酬を極端に低くして賞与へ寄せても、この上限の範囲では一定の保険料がかかる点にも留意が必要です。

「たった数千円」で負担が変わる等級の段差

帯域制の影響を、具体的なイメージでつかんでみましょう。役員報酬を月額59万円に設定している場合と、60万円に設定している場合を比べると、この1万円の差が等級の境界をまたぐことで、本人・会社を合わせた社会保険料が年間でおよそ10万円規模で変わるケースがあります(金額は概算で、保険料率や加入する健保によって変動します)。

わずか1万円の差が等級の段差をまたぐイメージ

役員報酬
月59万円
境界の手前の等級

+1万円→
役員報酬
月60万円
境界をまたいで一段上の等級へ

本人・会社合計の社会保険料が年間で
およそ10万円規模で変動
(概算。保険料率や加入する健保により変動します)

もちろん、社会保険料を抑えること自体が目的になるべきではありません。厚生年金は将来の年金額にもつながりますし、報酬額は事業の実態や役員の働きに見合ったものであることが大前提です。ただ、「自社の報酬額がたまたま等級境界のすぐ上に位置していないか」を知っておくことは、無用な負担を避けるうえで意味があります。報酬額の決定は、法人税・所得税・社会保険料のバランスを伴う経営判断です。賃金設計まで踏み込んで検討したい場合は経営・賃金コンサルティングもご活用ください。

社会保険料には「上限(天井)」がある

もう一つ重要なのが、標準報酬月額には上限があるという点です。報酬が一定額を超えると、それ以上は保険料が増えない「頭打ち」が生じます。健康保険と厚生年金で上限が異なるのが特徴です。

この上限の違いから、報酬が65万円〜139万円の帯では「厚生年金は頭打ち・健康保険はまだ上昇する」という二重構造が生じます。そして報酬が139万円を超えると社会保険料はおおむね頭打ちとなり、それ以上増やした分に対する手取り率は相対的に高まりやすくなります。

健康保険と厚生年金で異なる標準報酬月額の上限

65万円
厚生年金の上限
(最上位等級)
139万円
健康保険の上限
(協会けんぽ)

報酬額が上がっていくとき、健康保険と厚生年金で上限が異なることから、報酬の帯ごとに保険料の増え方が変わります。

報酬の帯 厚生年金 健康保険 保険料の動き
〜65万円 上昇 上昇 報酬とともに両方が上昇する
65万〜139万円 頭打ち 上昇 二重構造:厚生年金は頭打ち・健康保険はまだ上昇する
139万円〜 頭打ち 頭打ち おおむね頭打ち。増額分の手取り率が相対的に高まりやすい

手取り率は一定ではない

「報酬を増やせば、その分そのまま手取りも増える」と考えがちですが、実際は増やす金額帯によって手取り効率が変わります。社会保険料の段差と上限、そして所得税の累進が複雑に絡むためです。

たとえば報酬を月額50万円・80万円・120万円と段階的に上げていくケースで手取り率を試算すると、報酬が上がるにつれて手取り率はいったん下がり、社会保険料の頭打ちが効く高額帯では増額分の手取り率が相対的に持ち直す、という動きが見られます。具体的な数字は個々の事情で変わるため断定はできませんが、「報酬額と手取りは比例しない」という前提を持つことが、納得感のある報酬設計の第一歩です。

報酬額と手取りは比例しない。だからこそ、事業の実態に合った適正な報酬額を、税と社保の両面から選ぶことに意味があります。

こうした報酬額の決定は、法人税・所得税・社会保険料が絡み合う経営判断そのものです。賃金設計を含めて相談したい場合は経営・賃金コンサルティングで、事業の実態に合った適正な報酬額の検討をサポートします。

報酬を「低く抑える」ことのデメリット

社会保険料の負担だけに目を向けると「報酬を低くして保険料を抑えたい」という発想になりがちです。しかし、標準報酬月額を下げることには、目に見えにくい不利益が伴います。社会保険料を抑えること自体が目的になってはいけないのは、この裏側があるからです。

将来の年金が減る
標準報酬月額は将来の老齢厚生年金額の計算基礎になる。報酬を低く抑えるほど、受け取る年金額も目減りする。

健康保険の給付も目減り
傷病手当金や出産手当金などは標準報酬日額に連動する。報酬が低いと、いざというときの給付額も小さくなる。

注意:賞与へ寄せるスキームと調査リスク
月額報酬を極端に低くして賞与へ寄せる手法は、年金事務所による調査強化・実態確認の対象になりやすい論点です。実質的に毎月の給与とみなされれば、さかのぼって標準報酬月額が修正され、追加の保険料を徴収され得ます。前述のとおり年4回以上の賞与は「報酬」扱いとなる点とも整合させ、無理のない設計を心がけることが大切です。

実務で見落としやすい届出のポイント

報酬設計は「決めて終わり」ではありません。決定後の手続き(届出)でのミスが、後の遡及請求や調査リスクにつながります。特に注意したいのが次の3点です。届出の正確な運用に不安がある場合は、社会保険手続き代行(算定基礎届・月額変更届)の活用も選択肢になります。

届出 対象となる場面 タイミング・適用
定時決定
(算定基礎届)
毎年の標準報酬月額の見直し 4〜6月の報酬をもとに、原則7月10日までに届け出て、9月分から適用
随時改定
(月額変更届)
昇給・減給などで固定的賃金が変動し、変動月から3か月の平均で2等級以上の差が生じた場合 差が生じた都度。役員報酬の改定も対象となり、株主総会・取締役会の決議時期との整合が必要
通勤手当の変更 引っ越し等で通勤手当が変わった場合(固定的賃金の変動にあたる) 他の固定給と合わせて等級が動く引き金になり得る。「非課税だから関係ない」と判断しない

これらの届出は、漏れていると後から数年分をまとめて精算する事態になりかねません。報酬を改定したら「月額変更届の要否チェック」をルーティンに組み込んでおくと安心です。

税務と社保は別ルール
役員報酬は、法人税法上は原則として「期首から3か月以内に決定し、事業年度内は据え置く」定期同額給与のルールに沿う必要があります。一方、社会保険の随時改定(月額変更届)はこれとは別の手続きです。税務上のタイミングと社保上の届出は連動しないため、両方の視点で整合をとることが欠かせません。

報酬決定前のチェックリスト

報酬額を決める前に、次の項目をひととおり確認しておくと、無用な負担や届出漏れを避けやすくなります。

まとめ

給与・役員報酬の設計と社会保険料の関係について、要点を整理します。

SUMMARY
大切なのは「節税」ではなく「適正」

役員報酬と社会保険料の関係で大切なのは、小手先のテクニックではなく、制度を正しく理解したうえで、事業の実態に合った適正な報酬額を選ぶことです。標準報酬月額の帯域制、健康保険と厚生年金で異なる上限、手取り率が比例しないこと——これらを踏まえれば、無用な負担も将来の不利益も避けやすくなります。

社会保険の視点と税務の視点は密接に関わるため、社会保険労務士と税理士が連携して検討することで、より納得感のある設計につながります。費用感を知りたい方は料金表もあわせてご覧ください。

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